第2話 横領疑惑、なんか始まる
【朝・オフィス】
紗耶がデスクに座ると、総務部の空気がざわついている。
美咲
「紗耶ちゃん聞いた? 経理の棚卸しで“ズレ”が出たらしいよ」
紗耶
「ズレ……数字が、ですか?」
美咲
「そう。なんか、結構な額らしくて」
紗耶
「へえ……数字って、よくズレますよね」
美咲
「いや、そんな軽い話じゃないのよ!」
紗耶は首をかしげるだけ。
その無邪気さに、美咲は頭を抱える。
【総務部・会議スペース】
部長
「三枝くん、例の経費の件、説明してもらえるかな」
三枝
「え、ええと……その……」
紗耶は横でメモを取っている。
しかし、三枝の手元をちらっと見て、ふと口を開く。
紗耶
「三枝さん、その書類……前回と綴じ方が逆ですね」
三枝
「(ビクッ)……は?」
紗耶
「いつも左綴じなのに、今日は右綴じなので。
珍しいなと思って」
部長
「三枝くん、どういうことだね?」
三枝
「い、いや……ただのミスで……」
紗耶はにこっと微笑む。
紗耶
「ミス、ありますよね。私もよくやります」
三枝
「(お前はやらねえだろ……!)」
部長は疑いの目を向け始める。
【昼休み・カフェテリア】
美咲
「紗耶ちゃん、さっきの……わざと?」
紗耶
「え? 何がですか?」
美咲
「綴じ方の話よ! 三枝さん、めっちゃ動揺してたじゃん」
紗耶
「気づいたことを言っただけです。
あ、今日の味噌汁、出汁が濃いですね」
美咲
「話題の切り替えが急すぎる!」
紗耶は味噌汁を飲みながら、ぽつり。
紗耶
「三枝さん、最近よく手が震えてますね。
疲れてるのかな」
美咲
「(いやそれ絶対疲れじゃないよ……!)」
【午後・給湯室】
紗耶がコーヒーを淹れていると、経理の男性社員が入ってくる。
経理社員
「白石さん、ちょっと聞きたいんだけど……
三枝さんって、最近何か変じゃない?」
紗耶
「変……ですか?
あ、でも昨日、コピー機の前で“数字が合わない”って言ってました」
経理社員
「数字が合わない……?」
紗耶
「はい。何度も言ってました。
“なんでだよ”って」
経理社員
「……ありがとう。参考になった」
紗耶
「いえ。コーヒー飲みます?」
経理社員
「(この子、天使か悪魔か分からん……)」
【夕方・オフィス】
三枝が紗耶のデスクに来る。
三枝
「白石……お前、何か知ってるのか?」
紗耶
「え? 何をですか?」
三枝
「……いや、いい」
紗耶
「三枝さん、今日も手が震えてますよ。
大丈夫ですか?」
三枝
「っ……!」
紗耶は心配そうに見つめる。
しかしその“純粋な観察”が、三枝の心をさらに削る。
紗耶
「無理しないでくださいね」
三枝
「(……なんなんだこの女……!)」
紗耶は気づかない。
自分の“天然の観察”が、
三枝の疑念を確実に増幅していることに。
【帰り道】
美咲
「紗耶ちゃん、今日も色々あったね」
紗耶
「そうですね。
でも、みんな頑張ってますよね」
美咲
「(いや、頑張ってるっていうか……追い詰められてるのよ……)」
紗耶はふと空を見上げる。
紗耶
「明日、何か変わる気がします」
美咲
「え、なんで?」
紗耶
「なんとなく、です」
その“なんとなく”が、
この会社の運命を大きく揺らすことになる。
――第2話 終わり




