第10話 静かな勝利
【朝・オフィス】
紗耶が出社すると、総務部は異様な静けさに包まれている。
美咲
「紗耶ちゃん……聞いた?
三枝さん、今日付けで休職だって」
紗耶
「そうなんですか?
昨日“自分で自分を追い詰めた人の顔”でしたし……」
美咲
(その観察が追い詰めたんだよ……!)
【総務部・デスク】
社員A
「白石さん……すごいですね」
紗耶
「え? 何がですか?」
社員B
「全部、見抜いてたんですよね……?」
紗耶
「全部……?
いえ、私、何もしてませんよ」
社員A・B
(その言い方が一番怖い……)
【午前・会議室】
部長が総務部全員を集める。
部長
「三枝くんの件だが……
監査部の調査で、不正が複数見つかった」
ざわつく社員たち。
部長
「白石くん、君は何か気づいていたのか?」
紗耶
「いえ。
ただ、数字が違うなとか、
ファイル名が可愛いなとか、
ホチキスの角度が変わったなとか……
そういうことしか」
部長
「(それが全部核心だったんだよ……!)」
【昼休み・カフェテリア】
美咲
「紗耶ちゃん……
なんか、みんな紗耶ちゃんを“すごい人”って見てるよ」
紗耶
「すごい……?
私、普通ですよ?」
美咲
「(普通じゃないよ……観察力が人間じゃないよ……)」
【午後・給湯室】
経理社員が紗耶に頭を下げる。
経理社員
「白石さん……あなたのおかげで、不正が明らかになりました」
紗耶
「え? 私、何もしてませんよ。
ただ、見えるだけです」
経理社員
(その“見えるだけ”が怖いんだよ……!)
【夕方・オフィス】
美咲が紗耶に近づく。
美咲
「紗耶ちゃん……
本当に何もしてないの?」
紗耶
「はい。
私はただ、
“人は自分の弱さに負ける時がある”って思ってるだけです」
美咲
「……紗耶ちゃんって、優しいのか怖いのか分からないね」
紗耶
「え? 優しいですよ?」
美咲
(その笑顔が一番怖い……)
【帰り道】
紗耶はふと立ち止まる。
紗耶
「なんか……
今日、みんな“私を見てる目”が変わりました」
美咲
「そりゃそうだよ……
紗耶ちゃん、全部見抜いてたんだもん」
紗耶
「見抜いてた……?
いえ、私は何もしてませんよ。
ただ、見えるだけです」
紗耶は柔らかく微笑む。
その笑顔は、
優しくて、
明るくて、
底が見えない。
紗耶
「明日も、普通に仕事しましょうね」
美咲
「……うん」
紗耶は歩き出す。
その視線の先には、
“次の誰か”がいるようにも見える。
――第10話 終わり




