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風鈴の音が呼んだモノ

掲載日:2025/12/13

なろラジ大賞参加作です。


ある夏の日。


優人は自宅の敷地にある蔵の前にいた。


両親は出かけ夕方まで戻らない。


開けてはいけないと言われていた扉を、好奇心という鍵でこじ開けた。


埃っぽい闇。


奥の棚に和紙で巻かれた桐箱があった。


墨書きの札が貼られている。


優人は札を引きちぎる。


中には真っ赤なガラスの風鈴。


絵付けではなく、ガラスそのものが血のように赤い。


短冊代わりに動物の毛髪を束ねたような黒い房。


「ただの風鈴か」


拍子抜けした優人がそれを持ち上げた。


チリン。


その瞬間、蔵の扉が音を立て閉まった。


闇。


優人の喉がひきつる。


手の中の風鈴が振動を始めた。


風鈴の中から何かが這い出してきた。


それは人間の胎児のようでもあり、老人のようでもあった。


握り拳ほどのソレの表皮は白く、背中に蛾のような羽が生えている。


「うわぁっ!」


風鈴を投げ捨てようとしたが動かない。


『イタイ』


幼子と老婆の声を混ぜたような不気味な声が脳に響く。


這い出たソレは優人の腕を駆け上がり、その顔に飛びついた。


「ぐっ!」


冷たく湿った手が優人の両目を覆う。


その足が優人の喉を強く踏む。


『マブシイ』


「あ、が……」


息ができない。


ソレは優人の耳元に唇を寄せ、長い舌を這わせた。


ぬるりとした何かが侵入してくる。


『オマエ、オコシタ』


ソレが囁くたび、激痛が走る。


「ご、ごめんなさ……」


声が出ない。


涙と涎が溢れ出る。


殺される。


『コロサナイ。デモ、ヤクソク』


首を踏む力が緩んだ。


優人は喉を鳴らし空気を吸い込んだ。


『エサ。オマエ、ハコブ。ダレニモ、イウナ。イエバ、メダマ、タベル』


ソレが、優人の瞼を無理やりこじ開ける。


視界に映ったのは黒目だけの眼球。


奥には闇が渦巻いている。


「言わない!誰にも言わないから!」


優人が心の中で叫ぶと、ソレは笑った。


『イイコ』


ソレは再び風鈴の中へと消えた。


その夜。


机の電気スタンドにあの風鈴が吊るされている。


親には古道具屋で買ったと嘘をついた。


本当のことを言えば、目玉を抉られる恐怖が待っている。


チリン。


風もないのに音がする。


優人は震える手で、引き出しからカッターを出し指先を切る。


風鈴の下に指を差し出すと、中から伸びてきた何かが滲んだ血を吸い上げた。


『アマイ』


満足げな声が脳に響く。


優人は涙目で絆創膏を巻いた。


罪の代償。


階下から母親の笑い声が聞こえる。


平和な日常。


僕の部屋だけは、地獄と繋がっている。


チリン。


風鈴が鳴った。


「まだ足りないの……」


優人は涙目で反対の指に刃を当てた。


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