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第3話 これはマーキングです。


宮原商事との会合が終わり、料亭のロータリーに止まっている、自社の車の前にやってきた。


「社長、車に乗り込みますので、頭をぶつけないようにお乗りください。」


今もなお、私の腰に手をまわしている冬茉がエスコートする。

料亭のドアマンが後部座席のドアを開けて待っているので冬茉のエスコートを借りながら車に乗り込んだ。

続けて、反対側のドアから冬茉が乗り込む。



「運転ありがとうございます。

社長の自宅までお願いします。」


冬茉が専属運転手に伝えると車が発進した。


しばしの沈黙の後、冬茉が口を開いた。


「本日の会合お疲れ様でした。

ですが、陽緒莉さん、無理は禁物といいましたよね。

まずはお水を飲んで下さい。」


少し、不機嫌そうな冬茉が私の方を向いて言う。


私は冬茉の方を向いて、少し頭を下げて「ごめんなさい」と謝ると冬茉が用意してくれた水のペットボトルを受け取る。


「ありがとう」


私はお礼を伝えると受け取った水を一口飲み込んだ。


でも、酔いが回ってきて視界もふわふわしてくる。


「とーま、私、酔っぱらっちゃったみたい」


頭がふわふわして、少し眠たい。

冬茉にそう伝えると冬茉は「はぁ」と深いため息をついて、片手で私の頬っぺたをつまんだ。



「日本酒なんて一気するから酔っ払うんですよ」


呆れたように冬茉が言うと私が持っていたペットボトル取り上げるてキャップを閉める。


「だって、早く帰りたかったし

あんな言われ方したら断りにくいというか…」


私が言い訳をしていると冬茉が私の腰に腕をまわすと冬茉の方に引き寄せられる。


なんだろう?と私は首をましげると冬茉が肩に頭をのせるように自分の肩をポンポンと叩いて合図する。


私は指示されるまま、冬茉の肩に頭をのせた。


「自宅につくまで少し時間もあるので休んで下さい。」


冬茉がそう言うと私の頭をよしよし撫でてくれる。

冬茉の温かい温度とゆったり揺れる車の振動で次第に私は意識を手放した。





ーーー--



なんか、体がふわふわする



そんな感覚でゆっくり目を覚ますと目の前に冬茉の顔があった。


「目、覚ましたんですか?

自宅マンションに到着したので部屋まで運ぼうと思って」


涼しそうな顔して言う冬茉だが、私の置かれている状況的に…

これは完全にお姫様だっこ!!?


「起こしてくれればよかったのに!

ごめんね、自分で歩くから」


酔いも少し残っている私では状況把握が追いつけない。

私は自分で歩こうとするが冬茉は降ろしてくれない。



「もう、自宅につくのでそのままでいてください。」


冬茉はそう言うが、私の気持ち的にそわそわしてしまい落ち着かない。


重くないかなとか、よく持てるよなとか、そんなことを考えだしたら恥ずかしい!


自分の中で色々な葛藤をしていると自宅玄関までやってきた。



「鍵、開けますね」


そう言いながらも冬茉は私のことを抱っこしたまま、器用に合鍵でロックを解除すると自宅内の玄関に入る。


「冬茉、私も靴脱ぐからおろして」


私が冬茉にそういうと「後で脱がせるので、おとなしく抱っこされててください。」と言われてしまったので私はおとなしく抱っこされたままになってしまった。


冬茉は私を抱っこしたまま、靴を脱ぐとスリッパに履き替え、廊下を抜ける。

アイランドキッチンを抜けて、50畳はある我が家のリビングに入った。


リビングの真ん中に置いてある、モダンなU字型の6人掛けソファーに冬茉は向かった。

ソファの目の前にくるとコーナー部分に私を優しく降ろした。


「ここまで運んでくれてありがとう」


私が冬茉にお礼を言う。

持っていた、カバンをソファーの横に置くといつもつけている眼鏡を冬茉は外し、ソファーの目の前にある大きなガラステーブルに置いた。


仕事の時はいつも眼鏡をかけている冬茉だが、かけている眼鏡は実をいうと伊達メガネなのだ。

詳しい理由は、私にも教えてくれないけど、本人曰く「眼鏡してる方がまじめに見えるから」ということらしい。


それにしても、メガネを外した冬茉を久しぶりに見たかも。


「どういたしまして。

さぁ、ヒールを脱がせますよ」


ソファーの下に跪いている冬茉が丁寧に私の履いていたヒールを片方、脱がす。


「え、自分で脱げるから大丈夫だよ!」


冬茉の行動に驚き、私はもう片方のヒールを自分で脱ぐため、手を伸ばしたが冬茉が私の手を掴んだ。


「僕がしたいんです。」


真っすぐ私を見つめるバブル色の瞳。

譲らないという意思を私は感じた。


「わかったわ、ありがとう」


眼鏡を外したためか、いつもより綺麗に輝くバブル色の瞳を見つめているのが少し恥ずかしくなって、私は目線を横に流した。

掴まれていた手が離れて、もう片方のヒールを優しく脱がす冬茉。

私の足首に冬茉の手が触れる。

冬茉に触れた手が温かく、心地いい。


足首に触れていた手がふくらはぎをなぞってあがっていく。


ぴくっと私の足が震えた。


それを感じ取った、冬茉が跪いたまま妖艶な笑みをこちら向けた。


「くすぐったかったですか?」


クスッっと笑うと、どこか楽しそうに私に問いかける冬茉。



反応してしまったことに恥ずかしさを覚えた。


「…ちょっと、くすぐったかっただけ」



私はそっぽを向きながら、そう冬茉に言うと跪いていた彼がソファーに座っている私の前に身を乗り出した。


近づいてきたため、私は後ずさる。

だが、すぐ背もたれまで到達してしまいそれ以上後ろに下がれない。


「冬茉、ちょっと近いんだけど…」


私が冬茉を見つめてそういうと輝きを失くしたバブル色の瞳が私を見下ろす。

私のいる後ろの背もたれに片手をつくいた。


「僕、すごく怒ってるんです」



私の上から落ちてきた声が今まで聞いたことがないほど、低い。

いつもとは違う雰囲気の冬茉に少し、背筋が凍る。


流れる空気がピリつき、私は声を出すことができない。


「あれほど、”宮原には気を付けて”と忠告したのに

陽緖莉さんは無防備すぎます。」


冬茉そういうと空いている片手でカールのかかった栗色の髪を一束取ると口づけた。


「っ!?」


私は冬茉の行動に驚き、息をのむ。

抵抗するにも流れる空気に圧倒され、体が動かない。


「油断して、あんな下心しかない男に

触らせてしまうなんて…

とても、許せないですね。」



冬茉がそういうと触れていた髪を手放し、長いしなやかな指が私の首筋をなぞる。


「…んっ」


首筋の感覚に抑えられず、声が漏れてしまう。

私の反応に満足したのか楽しそうに冬茉が目を細めた。



「くすぐったいですか?」


冬茉が私の顔に近づくと耳元でつぶやいた。


私は恥ずかしくなり、冬茉を押しのけようと厚い胸板を両手で押した。



だが、びくともしない。

鍛え上げられた肉体を押しのけることはできず、腰に回された冬茉の手によってさらにお互いの距離が縮まった。


「お願い、冬茉

離して…!」


引き寄せられたため、冬茉の顔が近い。

私はできるだけ、そっぽを向いてもがくが冬茉は構わず、私の首筋に顔をうずめた。

ちゅっという音を立てながら私の首筋に冬茉が口付ける。


「ひゃぁっ」


突然の感覚に変な声が出てしまい、さらに恥ずかしさがます。


「これもくすぐったいですか?

それとも…」


クスクス、笑いながら首筋から離れた冬茉の唇が上にいき、私の耳に口付ける。


「心地いいですか?」


いつもより、甘く低い声で囁く冬茉。

冬茉のつけている香水が朝とは違う、ホワイトムスクの香りに変わっていて冬茉の首元から強く香った。


その瞬間、私の心臓が跳ね上がった。

今、されている行為も、いつもとは違う冬茉を"嫌だ"とは思っていない自分がいることに動揺してしまったから。



なにも返せず、思考が固まってしまった私から冬茉が少し離れると私の首筋に冬茉の指が触れる。


「図星ですか?

さっきより、脈が速くなっているのバレてますよ」


私を見下ろす、冬茉の瞳が満足げに細められた。



「…これは、そういう意味じゃ…」



私の返した言葉に、小さく笑い、冬茉の指が私の首筋を撫で上げ、フェイスラインをなぞると指が顎の先で止まる。


「それじゃぁ、どういう意味ですか」


顎に添えた指が私の顎をクイっと上げると、伏せていた目線が強制的に冬茉に向けられる。

私を見下ろす冬茉と目が合った。

薄暗い部屋の中でも、七色に輝くバブル色の瞳から私は目が離せなくなる。


お互いで見つめ合いながらしばしの沈黙が流れた。


"どう返せばいいの…?"

私は心の中で混乱していると冬茉が先に口を開いた。


「なーんて!

驚きましたか?」


いつもの雰囲気に戻った冬茉が私から離れた。


「え、どういうこと?」


動揺を隠せない私がソファーで固まっているとにこにこ笑う冬茉の姿があった。


「僕の忠告を破った罰です。」



冬茉がそういうと、テーブルに置いた眼鏡をかけ、自分のカバンから水の入ったペットボトルを取り出し、私に向ける。


「はい、お酒を薄めるためにも

お水をちゃんと飲んでください。」


「あ、ありがとう」


状況を掴めない私が困惑しながら水の入ったペットボトルを受け取る。



「今のは、なんだったの?」


状況の整理がつかない私は冬茉を見上げながら問いかけた。


一瞬、黒い笑みを浮かべた冬茉が「ふっ」と笑う。


もう一度、私に近づき私の座っているソファーの背もたれに片手をつく。


身構える私の耳元で冬茉がつぶやいた。


「あいつが触ったところを僕が上書きしときました。

これはマーキングです。」



そう言って、私から冬茉が離れると自分のカバンと私が脱いだヒールを手にして立ち上がった。


「今日はもう遅いので早めにお風呂に入って休んで下さいね」


また、いつもの冬茉に戻りソファーから離れていく。



「あぁ、それと

安易に他の男に触られたら、

次は何するかわかりませんよ


おやすみなさい、陽緖莉さん」



冬茉がそういうと、リビングから出ていき、ほどなくして玄関の扉が閉まる音とロックの音が聞こえた。



「な…なんだったの…」


力が抜けた私はそのままソファーに倒れ込んだ。



いまだに、鼓動の速い胸を押さえながら近くにあったクッションを掴み顔に押し当てた。



「あんなの、私が知ってる冬茉じゃない!!

首にキスってなに?

マーキングってどういう意味!?


私にはわからないよぉ…」


整理のつかない自分の頭にあきれた。

とりあえず、酔いは冷めたので冬茉から受け取ったペットボトルの水を飲み干すとシャワーを浴びるため、バスルームに向かった。

バスルームにあるハンガーにジャケットをかけ、鏡の前でシャツのボタンを外していると先ほど、冬茉に口づけをされた首筋に淡い紅色がついているのに気づく。


「~っ!!」


私は首筋を押さえたと同時に自分の顔が熱くなるのが分かった。



「…マーキングってこういうこと…?

って、少し吸われただけでキスマってつくもんなの…」



力が抜けて私はバスルームにしゃがみ込みそんなことをつぶやいた。




「明日から、どういう顔で冬茉に会えばいいのよ…」



高鳴る鼓動と首に残る淡い紅色に動揺が隠せず、少しの間、体が動かなかった。












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