-Side Story- ep1 加賀冬茉「僕の女神さま」
Side Story:ep1 加賀 冬茉
ーー気づくと僕は、家を飛び出し
激しく雨が降る夜の街をなにも持たずに
がむしゃらに走っていた。
特に行き場なんてない。
長年、耐えてきたモノが一気にこみ上げてきて
この感情は怒りなのか寂しさなのか
自分でもよくわからない。
ただ、消えたいと思った。
どれくらい走ったのかも、ここがどこなのかもわからない。
耳障りな繁華街を抜け、薄暗い路地裏にしゃがみ混んだ。
壁に持たれながら、雨雲に覆われた空を見上げた。
振り続ける雨が容赦なく、顔を打ち付け、涙と混じりあって頬を伝っていく。
徐々に奪われていく体温を感じながら、隣にある業務用ゴミ箱に頭を預けた。
家には帰りたくない。
あんな父と義母はゴメンだ。
いっそう、このまま死んしまえば
楽になるかもしれない。
今は冬だ。
東京でも氷点下をいく日もあるから
このまま、いれば明日の朝には凍え死ぬことができるかもしれない。
僕は、そう思い死を覚悟した。
「こんなところで何してるの?」
琴の音のような、品のある落ち着いた声が上から降ってくる。
こんなところに人は来るなんて思っていなかった僕の肩が跳ねる。
視線を滑らすとアイボリー色のパンプスが目に入る。
そのままゆっくり声をかけてきた女性を見上げる。
僕は女神が現れたのかと錯覚する。
ネオンの光が路地裏に漏れ、女性を鮮やかに映し出した。
肩より下の背中まで流れる髪は栗色をしていて、綺麗にカールがかかっている。
センターで分けられた前髪は長く、外巻きに巻かれていて大人の女性を思わせる。
肌は血色のいい色白でここからでもわかるほど肌は滑らかだ。
くっきり二重に瞳は大きく、綺麗なダークブラウン色。バランスのいい、長いまつげが可愛らしい。
形のいい鼻筋とぷっくりと膨らむ唇。
そこまで派手じゃないナチュラルメイクがよく似合っていた。
僕を見つめるダークブラウンの瞳が驚きの色に変わる。
僕は咄嗟に目線を外した。
父と義母に不気味がられる、虹色の瞳。
日本人とは思えない白銀の髪。
彼女もきっと不気味がるに違いない。
そう、思いながらも
僕はもう一度、彼女を見つめた。
「僕って生きてる意味あるのかな…」
どうにか絞りだした声は自分でも驚くほど掠れていた。
初対面の人になにをいっているんだろう。
そんなこと聞いたって困るに決まってる。
見つめる彼女の瞳が大きく見開いた。
彼女は僕の前にしゃがみ込み、雨を凌ぐよう差していた傘を僕の方に傾けた。
「なにがあったかはわからないけど、生きる意味なんてこれからでも作っていけばいいじゃない。
意味があるとかないとそんなことより、今を生きてることが偉いんだよ。」
生きてることが偉い...?
そんなこと今まで言われたことがない。
実の母が亡くなてから父と義母から「いらない子」「消えてしまえ」と言われ続けてきた僕にそんな言葉をかけてくれる人がいたなんて。
僕の視界が揺れた。
「ほら、風邪引いちゃうからとりあえず、うちにおいで
まずはお風呂に入って、ごはん食べるよ
嫌かもしれないけど、今日は遅いからうち泊まってて
ゲストルームもあるから」
彼女がそう言うと羽織っていた黒いロングコートを僕の肩にのせる。
カバンから綺麗に椿の刺繍が施されているアイボリー色のガーゼハンカチを取り出すと僕の顔を優しく拭いていく。
「ほら、傘持って!」
そう言って僕におしゃれな傘をもたせると僕の前に手を差し伸べてきた。
「行くよ、立って!」
僕は差し出された手を空いている方の手で、手をとると勢いに任せて立ち上がった。
彼女との目線の高さはほぼ一緒で再び、目が合う。
彼女は楽しそうににっこりと笑った。
「風邪ひいちゃうし、早くかえろう。」
そう言って僕の手を引き、繁華街のある通りへと出た。
雨に濡れて色彩、鮮やかに光輝くネオンをバックに彼女が微笑んだ。
ーー世界はこんなに色で溢れていたんだ。
薄暗いモノクロの世界から色彩豊かな世界に変わっていく。
こんな、得体もしれない僕をためらいもなく、救い出してくれた彼女をとても愛おしく思った。
その笑顔を守り続けたいとーー
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陽緒莉さんにモーニングティーを注ぎ、これでもか!というくらいマシュマロを乗せたあと、僕は1日のスケジュールを読み上げる。
マシュマロましましミルクティーを溢さないように慎重に口に運ぶ陽緒莉さんが可愛すぎる。
あの日、僕を救い出してくれた陽緒莉さんにこれからも側で恩返しをしていきたい。
あの日、僕の中で誓った
”陽緒莉さんの笑顔”をちゃんと守り続けているだろうか。
時雨家 13代目という、大きな看板を背負って日々、奮闘する陽緒莉さんがしっかりオン・オフの切り替えができるよう、僕が支え続けるから。
昔と変わらない貴女のままでいてほしい。
ーーでも、陰ながら支え続けるのも、僕としては納得がいかない。
そろそろ、男としての冬茉をみてもらうのもいい頃合いだと思うから…
ーー陽緒莉さん、覚悟していて下さいね。
読んで頂きありがとうございます。
本編は主に陽緒莉目線で書いているのでなかなか、他のキャラの視点が出せないな、と思ったのでSide Storyを書きました。
これから出てくるキャラもそうですが、結構キャラ設定的なのが楽しくてつい、深堀りしすぎてしまうことが多々あるので「書きたい!!」ってなってしまいました。ので、度々Side Storyを出していきたいと思います。
楽しく読めるよう頑張って行きますのでよろしくお願いします!
誤字・脱字の訂正依頼や感想などありましたらどしどしお待ちしております。
誤字と一部文章を変更しました。3/13訂正




