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現世に転生したけどDNAをいじれるだけなので、ひっそり暮らします  作者: まじゅちゅし


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8/20

山奥の別荘で、ようやく本当のことを話した

翌朝、午前7時。


駅前のロータリーで、エリシアが立って待っていた。

その隣には、黒い四駆の車と、50代くらいの男性。


「おはよう、佐藤くん」

「おはよう」


僕が近づくと、エリシアが男性を紹介した。


「こちら、柳瀬修さん。私の……知り合い」

「初めまして。柳瀬です」


男性は、落ち着いた声で挨拶した。

短髪、引き締まった体格、鋭い目つき。

一見すると、元自衛官か警察官のような雰囲気だ。


「佐藤健太です」

「ああ、噂は聞いてるよ。大変だったね」


柳瀬さんは、優しく微笑んだ。

しかし、その目は――

僕を値踏みするように、じっと見ている。


「さ、乗って。時間がかかるから」


エリシアが後部座席のドアを開けた。

僕とエリシアが後ろに、柳瀬さんが運転席に座る。


「じゃあ、出発するよ」

エンジンがかかり、車が動き出した。


街を抜け、郊外へ。

やがて、山道に入っていく。

窓の外は、だんだんと緑が濃くなっていく。


「結構、奥なんですね」

「ああ。携帯の電波もギリギリ届くか届かないかってところだ」


柳瀬さんが、バックミラー越しに僕を見た。


「でも、そのぶん安全だ。誰にも見つからない」

「……ありがとうございます」

「礼はいい。エリシアに頼まれたからね」


車は、曲がりくねった山道を登り続けた。

しばらく、沈黙が続く。


そして――

「なあ、佐藤くん」

柳瀬さんが、急に口を開いた。


「お前、本当にアルヴィンなのか?」


『……え?』


「柳瀬さん!」

エリシアが、慌てて制止した。


「いや、確認したいんだよ。エリシアからは聞いたけど、この目で見るまでは信じられない」


柳瀬さんは、車を路肩に停めた。

そして、振り返って僕を見た。


「『生命再編師』アルヴィン。異世界で死んだはずの男」


その目は、真剣だった。


「お前が、本物なら――証明してくれ」

「証明……?」

「ああ」


柳瀬さんは、右手を差し出した。

「俺の古傷を治してみろ」

彼の手首には、古い火傷の跡があった。


「これは、異世界で負った傷だ。転生しても、なぜか消えなかった」

「……」


僕は、彼の手首に触れた。

『スキャン開始』

細胞の情報が流れ込んでくる。


『これは……深部までダメージが残ってる。真皮層のコラーゲン線維が変性して、メラノサイトも破壊されてる』

『表皮基底層のケラチノサイト幹細胞を活性化。コラーゲン1型と3型の合成を促進。メラニン産生を正常化……』


1.5秒。


「……っ!」


柳瀬さんが、驚きの声を上げた。

火傷の跡が、みるみる薄くなっていく。


そして――

消えた。


まるで、最初から何もなかったかのように。

「……本物だ」

柳瀬さんは、自分の手首を何度も確認した。

「ずっと残ってた傷が……一瞬で」

彼は、僕を見た。


その目には、驚きと――

「ようやく会えた。アルヴィン様」

柳瀬さんは、深く頭を下げた。


「俺の名は、柳瀬修。異世界では――ガルヴァンと名乗っていた」

『ガルヴァン……!』


その名前を、僕は知っていた。

エリシアの部下。聖騎士団の副長。


「お前……ガルヴァンなのか……」

「ああ。異世界で戦死して、この世界に転生した」


柳瀬さん――ガルヴァンは、苦笑した。

「エリシアから、お前が現世にいるって聞いた時は、信じられなかった」

「……そうだったのか」

「ああ。でも、本物だった。良かった」


彼は、再び運転席に向き直った。

「さあ、別荘まで行こう。そこで、ゆっくり話そう」

エンジンがかかり、車が再び動き出した。


さらに30分ほど走って、ようやく別荘に着いた。

木々に囲まれた、小さなログハウス。

「ここが俺の別荘だ。好きに使ってくれ」

ガルヴァンが鍵を開けて、中に案内してくれた。


室内は、思ったより綺麗だった。

リビング、キッチン、寝室が二つ。

「電気と水道は通ってる。食料も、昨日持ってきた」

「……ありがとうございます」

「礼はいい。お前は、俺たちの恩人だからな」


ガルヴァンは、キッチンでコーヒーを淹れ始めた。

僕とエリシアは、リビングのソファに座った。

「……はあ」

大きく息を吐いた。


『ようやく……静かになった』

窓の外は、森。

鳥の鳴き声だけが聞こえる。

人の声も、車の音も、何もない。


『これだ。これが欲しかった』

ガルヴァンが、コーヒーを持ってきた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


温かいコーヒーを飲むと、体の緊張がほぐれていく。

ガルヴァンも、向かいのソファに座った。

「俺は、これから街に戻る。お前たちのことが広まってるから、食料の買い出しとか、俺がやる」

「すみません……」

「気にするな。それより――」


ガルヴァンは、真剣な顔で言った。

「お前ら、ここに何日いるつもりだ?」

「1週間くらい……」

「1週間か。その間に、俺が情報を集める。黒覆面の連中が何者なのか、何が目的なのか」

「お願いします」

「ああ。じゃあ、俺は行く。何かあったら、この番号に電話してくれ」

ガルヴァンは、名刺を渡してくれた。


そして、別荘を後にした。

車の音が、遠ざかっていく。

やがて――

静寂。


僕とエリシア、二人だけになった。

しばらく、何も言わなかった。

鳥の鳴き声。

風の音。


そして――

「ねえ、アルヴィン」

エリシアが、静かに口を開いた。

「なに?」

「今まで、よく静かにできたわね」

「……え?」

「だって、あなたの能力、すごいのに。異世界でも現世でも、本当はもっと目立つはずなのに」

エリシアは、カップを両手で持ちながら、僕を見つめた。


「花粉症を治して、暴れる人を助けて、花を再生させて……それでも、ずっと『ひっそり暮らしたい』って」

「……」

「どうして? なんで、そこまで隠れたいの?」


彼女の目は、優しかった。

責めているわけじゃない。

ただ、純粋に、疑問に思っているだけ。


僕は――

カップを置いた。


「……話したくないこと、聞く?」

「聞きたい」

エリシアは、真剣な表情で頷いた。


「あなたのこと、もっと知りたいから」

僕は、窓の外を見た。

木々が風に揺れている。


『……話すか』


どうせ、もう隠せない。

エリシアは、異世界でも僕を知っている。

なら――


「エリシアは、異世界での僕のこと、『勇敢だった』って言ったよね」

「ええ」

「それは……違う」


僕は、ゆっくりと言葉を選んだ。

「僕は、臆病者だった」

「……」

「異世界に転生した時、最初は嬉しかったんだ。『生命再編』なんて、すごい能力をもらって。何でもできるって思った」


僕は、遠い記憶を辿る。

異世界での、最初の日々。


「でも、すぐに気づいた。この能力、戦争には向いてない」

「……そうね」

「回復魔法使いは、一瞬で傷を治せる。でも僕は、DNAレベルで治療するから、時間がかかる」

「それでも、あなたの治療は確実だったわ」

「確実でも、遅い。戦場では、速さが求められる」


僕は、拳を握りしめた。

「『役立たず』って、何度も言われた」

「……」

「『お前の能力は、平時には使えるかもしれないが、戦時には無意味だ』って」

あの言葉が、今でも耳に残っている。


「それで?」

エリシアが、優しく促した。

「それで……僕は、引きこもった」

「引きこもった?」

「うん。人前に出なくなった。呼ばれても、断った。『どうせ役立たず』だからって」


僕は、自嘲気味に笑った。

「でも、たまに呼ばれる。『どうしても治せない病気がある』とか、『この作物を何とかしてくれ』とか」

「ええ」

「そういう時だけ、僕は仕事をした。そして、また引きこもった」

「……ずっと、そうやって?」

「うん」

僕は、頷いた。


「ずっとそうやって生きてた。目立たないように。期待されないように」

「アルヴィン……」

「そして、ある日、死んだ」


僕は、その時のことを思い出した。

「『アルヴィン! 後ろ!』って、仲間が叫んだ」

エリシアの表情が、固まった。

「振り返ったら……フェンリルの爪が、僕の胸を貫いてた」

「……」

「痛みはなかった。ただ、視界が傾いて、地面に倒れた」

僕は、目を閉じた。


あの時の光景が、鮮明に蘇る。

「仲間たちが駆け寄ってきて、『回復魔法を!』って叫んでた」

「……」

「でも、無理だった。心臓をやられてたから」

「アルヴィン……」

エリシアの声が、震えていた。


「最後に、仲間に謝った。『ここまでみたいだ』って」

「……っ」

「でも、みんなを守れて、よかったって思った」

僕は、目を開けた。


「そして、気づいたら――現代日本の赤ん坊になってた」

エリシアは、涙を浮かべていた。

「そんな……あなた、最後まで……」

「最後まで、役立たずだったよ」

僕は、苦笑した。


「引きこもってばかりで、たまに出てきたら、すぐ死んだ」

「違う!」

エリシアが、強く言った。


「あなたは、役立たずなんかじゃない!」

「でも……」

「あなたが最後に出てきたのは、仲間を守るためでしょ!?」

彼女は、涙を拭った。


「それは、勇敢な行動よ。臆病者なんかじゃない」

「……エリシア」

「あなたは、ずっと自分を責めてる。でも、それは間違ってる」

彼女は、僕の手を握った。


「あなたは、誰よりも優しくて、誰よりも強かった」

「……」

「だから、今度は――」

エリシアは、僕の目を見た。


「自分を責めないで。胸を張って生きて」

「……できるかな」

「できるわ。私が一緒にいるから」

彼女は、微笑んだ。

「異世界でも、今世でも。私は、あなたの味方だから」


僕は――

何も言えなかった。


ただ、彼女の手の温かさを感じていた。

窓の外で、鳥が鳴いた。

風が、木々を揺らした。

静かな、山の中。


『……少しだけ、前を向けるかもしれない』

僕は、深く息を吸った。

「……ありがとう、エリシア」

「どういたしまして」

彼女は、優しく微笑んだ。


「さ、お腹空いたでしょ。お昼ご飯作るわ」

「手伝うよ」

「じゃあ、野菜切ってくれる?」

「任せて」


僕たちは、キッチンに立った。

エリシアが鍋を準備し、僕が野菜を切る。

『……こういう、普通の時間』

異世界では、なかった。

現代日本でも、なかった。


でも、今――

『ある』


包丁の音。

水の音。

エリシアの鼻歌。

『……悪くないな』

僕は、少しだけ笑った。


そして――

この静かな時間が、長くは続かないことを。

僕たちは、まだ知らなかった。

山の麓では、すでに――


黒い車が、何台も集まり始めていた。

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