特務施設での生活が、色々と大変すぎた
特務施設Aでの生活が始まって、三日が経った。
朝6時。
僕は目を覚ました。
『...あれ?』
何か、重い。
布団をめくると——
神谷理香が、僕に抱きついて寝ていた。
「うわあああ!」
「ん...? おはようございます、アルヴィン様」
神谷理香は眠そうに目を開けた。パジャマの胸元がはだけている。
「な、なんで僕のベッドに...!」
「護衛です」
彼女は当然のように答えた。
「夜間、アルヴィン様を守るため、そばで寝ていました」
「そばって...抱きつかなくても...!」
「体温で異常を感知するためです」
『そんな護衛があるか!』
ドアが開いた。
「アルヴィン様、朝食の準備が——」
花園麗が固まった。
僕と神谷理香が、ベッドの上で抱き合っている状態。
「...これは」
「違う! 違うんです!」
僕は必死に弁解した。
「ヴァルキリアが勝手に...!」
「まあ」花園麗は微笑んだ。「朝から元気ですね、アルヴィン様」
「元気じゃない!」
その後ろから、影山静香が顔を出した。
「...アルヴィン様、次は私の番です」
「番って何!?」
有栖川愛も覗き込む。
「あら、もう始まっていたんですか。データを取りたかったのに」
「データって何のデータ!?」
月野るな(ルナ)が頬を赤らめながら言った。
「ア、アルヴィン様...そんなに積極的だったなんて...」
「積極的じゃない!」
倉田春菜が腕を組んで立っていた。
「アルヴィン様。説明してもらおうか」
その目は笑っていない。
「だから違うって!」
朝食。
長いテーブルに、転生者たちが座っている。
僕の両隣には、倉田春菜と影山静香。
向かいには、有栖川愛、月野るな(ルナ)、花園麗。
少し離れた席に、神谷理香、セレスティア、田中裕子、山本美咲。
柳瀬修は...隅っこで小さくなっていた。
『ガルヴァン、完全に居場所ないな...』
「はい、アルヴィン様、あーん」
花園麗がスプーンで卵焼きを差し出してくる。
「自分で食べられます...」
「遠慮なさらず。健康管理は私の役目ですから」
彼女は微笑む。
僕が口を開けると、彼女は嬉しそうに卵焼きを食べさせてくれた。
「美味しいですか?」
「...美味しいです」
「良かった」
花園麗の顔が、少し赤い。
倉田春菜がフォークを置いた。
「フローラ。食事の邪魔だ」
「あら、エリシア様。嫉妬ですか?」
「嫉妬じゃない」
倉田春菜の目が怖い。
影山静香が僕の肩に手を置いた。
「アルヴィン様。紅茶をお注ぎします」
「あ、ありがとう...」
彼女はカップに紅茶を注ぐ。
その時、彼女の身体が僕に密着した。
『近い...!』
「...お好みの温度でしょうか」
彼女は僕の耳元で囁く。
息がかかる。
「う、うん...」
有栖川愛が立ち上がった。
「アルヴィン様、食後に健康診断をさせてください」
「健康診断?」
「はい。DNA構造の変化を日々記録したいんです」
彼女は眼鏡をキラリと光らせた。
「全身を、隅々まで調べます」
「...なんか怖い」
「大丈夫です。痛くしませんから」
『そういう問題じゃない...!』
月野るな(ルナ)が頬を膨らませた。
「ずるい...私も、アルヴィン様と二人きりになりたい...」
「ルナも一緒に来る?」
有栖川愛が誘った。
「い、いいの...?」
「もちろん。助手として手伝って」
月野るな(ルナ)の顔が明るくなった。
「うん!」
『いや、待って。何をする気なの...?』
セレスティアがワイングラスを傾けた。
「アルヴィン様、午後はお時間ありますか?」
「え...まあ、特に予定は...」
「では、私とお茶をしませんか?」
彼女は妖艶に微笑む。
「二人きりで、ゆっくりと」
倉田春菜が立ち上がった。
「セレスティア。アルヴィン様は午後、私と訓練がある」
「あら、そうでしたか?」
「そうだ」
二人が睨み合う。
『訓練って何...?』
田中裕子が静かに言った。
「皆さん、落ち着いてください。アルヴィン様を取り合うのは不毛です」
「ユスティアの言う通りだ」
山本美咲が頷いた。
「順番を決めましょう。公平に」
「順番...?」
僕は嫌な予感がした。
「そうですね」
セレスティアが手帳を取り出した。
「では、月曜日は私。火曜日はエリシア様。水曜日は...」
「待って待って! 何の順番!?」
全員が僕を見た。
「デートの順番です」
セレスティアが微笑んだ。
「...は?」
「アルヴィン様。私たちは皆、あなたと過ごす時間が欲しいんです」
花園麗が優しく言った。
「だから、一日ずつ順番に、あなたと二人きりで過ごす時間を作ろうと」
影山静香が頷いた。
「公平です」
有栖川愛も賛成した。
「素晴らしいアイデアです」
月野るな(ルナ)は顔を真っ赤にしている。
「ア、アルヴィン様と...二人きり...」
神谷理香が立ち上がった。
「私は夜間の護衛を担当します」
「だから抱きつかないで!」
柳瀬修が小さな声で言った。
「...私は外で待機していますね」
『ガルヴァン...頑張れ...』
午前10時。
有栖川愛と月野るな(ルナ)に連れられて、医務室へ。
医務室は、最新の医療機器が並ぶ清潔な部屋だった。
「では、アルヴィン様、こちらのベッドに」
有栖川愛が白衣を着ている。
月野るな(ルナ)も看護師のような服装。
『これ...本当に健康診断...?』
「まず、上着を脱いでください」
「え...」
「遠慮なさらず」
有栖川愛が近づいてくる。
僕は渋々、シャツを脱いだ。
「ふむ...」
有栖川愛が僕の胸に手を当てた。
「心拍数、正常。筋肉の状態も良好」
彼女の手が、僕の腹筋をなぞる。
「ひゃっ...!」
「くすぐったいですか?」
「...うん」
「可愛いですね」
有栖川愛が微笑んだ。
月野るな(ルナ)が聴診器を持ってきた。
「ア、アルヴィン様...心臓の音、聞かせて...」
「う、うん...」
月野るな(ルナ)が聴診器を僕の胸に当てた。
彼女の顔が近い。
とても近い。
「...ドキドキしてる」
月野るな(ルナ)が呟いた。
「そりゃ...こんな状況じゃ...」
「私のせい...?」
彼女が上目遣いで見てくる。
「...そうかも」
「えへへ」
月野るな(ルナ)が嬉しそうに笑った。
「では、次は血圧測定です」
有栖川愛が血圧計を持ってきた。
僕の腕に巻きつける。
「...高いですね」
「そりゃそうだよ...」
「緊張していますか?」
「緊張してる」
「では、リラックスさせましょう」
有栖川愛が僕の背中に手を回した。
「ちょ...!」
「深呼吸してください」
彼女の身体が密着する。
『リラックスできるわけない...!』
月野るな(ルナ)が反対側から抱きついてきた。
「私も...手伝う...」
「二人がかりで抱きつかれて、どうリラックスしろと...!」
ドアが開いた。
「アルヴィン様、訓練の時間——」
倉田春菜が固まった。
僕が上半身裸で、有栖川愛と月野るな(ルナ)に抱きつかれている状態。
「...これは」
「違う! 健康診断だって言われて...!」
倉田春菜は静かに扉を閉めた。
「アリシア、ルナ。後で話がある」
「は、はい...」
二人が僕から離れた。
午後1時。
訓練場。
倉田春菜が空手着を着ている。
僕は...ジャージ。
「アルヴィン、あなたも戦い方を学ぶべき」
「え...僕、戦えないよ...」
「大丈夫。基本から教える」
倉田春菜が近づいてくる。
「まず、構えから」
彼女が僕の身体を触って、姿勢を直す。
「腰を落として...足を開いて...」
彼女の手が、僕の腰に回る。
「え、エリシア...?」
「姿勢が大事なんだ。動かないで」
彼女の身体が密着した。
「...近くない?」
「これくらいの距離で、相手の動きを感じ取るんだ」
彼女は真面目な顔で言った。
『本当に...?』
「次は、受け身の練習だ」
「受け身...?」
「そう。倒れ方を学ぶんだ」
倉田春菜が僕の手を取った。
「いくぞ」
彼女は僕を引っ張り、投げ飛ばした。
「うわあ!」
僕はマットの上に倒れた。
「痛い...」
「大丈夫?」
倉田春菜が上から覗き込む。
彼女の顔が、とても近い。
「...大丈夫」
「良かった」
彼女は微笑んだ。
「じゃあ、もう一回」
「え...」
また投げ飛ばされた。
そして、また倉田春菜が上から覗き込む。
「...ねえ、エリシア」
「ん?」
「これ、わざとやってない...?」
彼女は顔を赤らめた。
「...バレた?」
「バレた」
倉田春菜は僕の隣に座った。
「ごめん。あなたと二人きりになりたくて...」
「...そっか」
沈黙。
「ねえ、アルヴィン」
「ん?」
「私、異世界であなたの最期を見た時...すごく後悔したんだ」
彼女は膝を抱えた。
「もっと早く、あなたを守れていれば...もっと、あなたと話していれば...」
「エリシア...」
「だから、今度は絶対に守る。そして、たくさん話したい」
彼女は僕を見た。
「...あなたと、もっと近くにいたい」
僕は彼女の目を見た。
真剣な眼差し。
「...ありがとう」
僕は彼女の手を握った。
「僕も、エリシアと一緒にいたい」
彼女は微笑んだ。
「...本当?」
「本当」
倉田春菜は、僕の肩に頭を預けた。
「...嬉しい」
僕たちは、しばらくそのまま座っていた。
午後4時。
セレスティアの部屋。
豪華な調度品が並ぶ、まるでホテルのスイートルームのような部屋。
「お待ちしていました、アルヴィン様」
セレスティアがドレスを着て出迎えた。
「あの...お茶って聞いてたんだけど...」
「はい、お茶です」
彼女はテーブルを指差した。
そこには、高級そうな紅茶セットと、ケーキが並んでいる。
「どうぞ、座って」
僕はソファに座った。
セレスティアが隣に座る。
とても近い。
「紅茶をお注ぎしますね」
彼女は優雅にカップに紅茶を注いだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう...」
僕は紅茶を飲んだ。
「美味しい」
「良かった」
セレスティアは微笑んだ。
「アルヴィン様、ケーキもどうぞ」
彼女がフォークでケーキを切り、僕の口元に運んでくる。
「あーん」
「...自分で食べられるよ」
「遠慮なさらず」
僕は口を開けた。
ケーキが口に入る。
「美味しい...」
「私が作りました」
「え、セレスティアが...?」
「はい。あなたのために」
彼女は嬉しそうに微笑む。
「ありがとう...」
セレスティアは僕の隣に、さらに近づいた。
「ねえ、アルヴィン様」
「ん?」
「私、異世界であなたに命を救われました」
「...そうなの?」
「はい。魔法実験の失敗で、瀕死の状態でした。でも、あなたが治してくれた」
彼女は僕の手を取った。
「あの時から、ずっとあなたのことを想っていました」
「セレスティア...」
「でも、あなたは引きこもりがちで...私は声をかけられなかった」
彼女の目が潤んでいる。
「そして、あなたは死んでしまった」
「...ごめん」
「謝らないで」
セレスティアは僕の頬に手を添えた。
「今度は、私があなたを守ります。そして...」
彼女は顔を近づけた。
「あなたと、一緒にいたい」
彼女の唇が、僕の唇に近づく。
『これ...キス...?』
その時——
ドアが勢いよく開いた。
「セレスティア! アルヴィンを独り占めするな!」
倉田春菜が飛び込んできた。
「あら、エリシア様。ノックもせずに入るなんて」
「ノックしてる暇があるか!」
二人が睨み合う。
僕は...ホッとした。
『助かった...』
夜8時。
夕食後、僕は自分の部屋に戻った。
『今日は...疲れた...』
ベッドに倒れ込む。
ドアがノックされた。
「アルヴィン様、入ってもよろしいですか?」
神谷理香の声。
「...どうぞ」
彼女が入ってきた。
パジャマ姿。
「今夜も、護衛をさせていただきます」
「...抱きつかないでね」
「約束します」
彼女はベッドの横に座った。
そして——
僕の手を握った。
「でも、手は握らせてください」
「...手だけなら」
「ありがとうございます」
神谷理香は微笑んだ。
沈黙。
「ねえ、アルヴィン様」
「ん?」
「私、異世界で不治の病にかかっていました」
「...そうなの?」
「はい。もう、死を覚悟していました」
彼女は僕の手を強く握った。
「でも、あなたが治してくれた。あなたは『誰でも生きる権利がある』と言ってくれた」
彼女の目に涙が浮かんでいる。
「あの時から、私はあなたのために生きようと決めました」
「ヴァルキリア...」
「だから、今度は私があなたを守ります。何があっても」
彼女は僕の手を、自分の頬に当てた。
「あなたは...私の全てです」
僕は、何も言えなかった。
ただ、彼女の手を握り返した。
「...ありがとう」
神谷理香は微笑んだ。
「おやすみなさい、アルヴィン様」
「おやすみ、ヴァルキリア」
彼女は、僕の手を握ったまま、隣で眠り始めた。
僕は天井を見た。
『みんな...僕のことを、そんなに想ってくれていたんだ...』
異世界で「役立たず」と言われ続けた僕。
でも、救った命は確かにあった。
そして、その人たちが——
今、僕を守ってくれている。
『僕...もっと、胸を張って生きていいのかな...』
そう思いながら、僕は眠りについた。
同じ頃。
施設の外。
森の中に、一人の男が立っていた。
鷹野剣。
「...アルヴィン様、あなたは幸せそうだな」
彼は施設を見つめた。
「でも、まだ終わっていない」
彼の通信機が鳴った。
『ブレイド、準備はいいか』
「ああ」
『明日、動く。アルヴィン様を奪還する』
「了解」
鷹野剣は剣を握った。
「アルヴィン様...あなたを、必ず守る」
彼は、闇の中に消えた。




