表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/106

95

 1946年、今、アメリカに住む日系アメリカ人や日本人移民に取って最もホットな話題は日本派遣の財務査察特別官の募集であった。期間は5年間であり、希望があればそのまま日本政府の役人となることも可能というシステムであり、給料が下士官待遇の月100ドル(約1500円)というアメリカ人が裕福と感じる暮らしのおおよそ月120ドルに迫る金額を支給するという、仕事も財産も戦争によって放棄させられ収容所に入れられた、戦後直後におけるアメリカ日系人や移民日本人には考えられない程の高給とりの仕事なのだ。

 但し、その職業はアンタッチャブルのような孤高の職種であり、会計等の技能も必要とされるため、その選抜は厳しいものがあった。

 一方、新生日本の規律を正す重要な役割を持つ、従来の役所とは一線を画した新しく新設された独立部署であるという。

シカゴに住んでいた日系二世の佐藤一郎もアンタッチャブルと呼ばれていた財務特別官については、小さい頃から夢の中にいるヒーローとして息づいていた。数字に強く町の小さな会計事務所で小僧になり安い賃金で長くこき使われていたが、会計帳簿の仕組みは理解できており、大抵の仕事はこなすことが出来るようになっていた。

 しかし、日系人であるがために昇進はなく低賃金で働かされるばかりであった。さらに運悪くこの戦争によって両親と共に収容所に入ることになり、何もかも失ってしまっていた。

 日雇い労働者として、何とか日々を送っていたところに友人が日本における財務査察特別官の募集を聞きつけて彼に教えてくれたのだ。

 すぐさま彼は陸軍の広報部に訪れて採用試験を受ける為の方法を確認し、その場で試験に受からなくても補助員になれば新兵並みの月50ドルが支給されることを聞き、迷わず採用試験を受けることにした。試験会場はニューヨークとサンフランシスコとホノルルしか無かったが、異例とも思える軍事パスの切符が支給された。

 結局佐藤一郎はサンフランシスコ会場で憧れの日本財務査察特別官の第一期生として晴れて日本に赴くことになった。

当然彼の両親もまさか自分の息子が日本の官僚になれるなどとは、ついぞ想像してなかっただけに大喜びであった。彼らに取って官僚とは町人が武士階級に任命されるくらいの名誉ある出来事であったからだ。


 新日本政府にはGHQに抗う力は残されていなかった。「国家反逆罪」容疑で主だった政治家や高位官僚のほとんどが拘束される事態となった為である。さらに組織犯罪の事実においての告白に免責条項を付け加えた為、ほとんどの官僚が詳細な事実を暴露させられることになった。そこから芋づる式にどんどん連鎖の輪が広がっていき、多くの政治家や軍人、軍閥企業、財閥、宗教関係者まで幅広い層の検挙に繋がっていった。

 残された官僚や政治家は全て及び腰になり、GHQから提案された、独立した行政機構の国家財務査察特別監査局の設立と行政府の人事局人事課のGHQによる推薦任命制度も全面的に受け入れることになった。

 「あれほど抵抗していた日本の官僚がまるっきり借りて来た猫みたいに皆素直になって、変われば変わるもんですね。」とダラス次長。

「「暁の猟犬作戦」実行以後、無人の野を行く如き快進撃だ。我々の提案が何の抵抗もなく全て通っていく。が、逆に言えば日本の立て直しに失敗すればそれは全て我々のミスにという評価になる。楽な代わりに責任が格段に重くなったような現在の状況はうれしいような困ったものだ。」とGS(内務局)のヒューストン局長。

「とにかく、GHQに莫大な資金が集まりました。我々は何の気兼ね無しに、この日本に理想的な国を作ることができる。国民の不満を解消しながら、新しい国民になれる教育を次代に施して基礎を固めることが出来れば、長く続く理想的な国家として発展していくでしょう。」とダラス次長。

「つくづくMrシミズは恐ろしい智謀を持っていると痛感したよ。」

「我々の考えが及びつかない事をまだ持っているかもしれませんから、知恵を借りに堺基地までちょくちょく行く事にします。」

「ああ、足労かけてすまないが、ダラス次長、よろしく頼む。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ