88
「確かに我々は日本を直接統治する訳ではない。その結果我々が思い描く日本と現実の日本には大きな差異が起きている。特にこの悪性インフレは民衆を不安にし、社会の再建に大きな障害となって我々に立ち塞がっている。Mrシミズが提案した「暁の猟犬作戦」はこの日本を根本から覆すほどの効果があると私も確信している。官僚組織の人事権をその騒動に紛れて一気に掌握する企画力も我々としては賞賛に値するものだ。ただ一つだけ我々に分からない事がある。何故君がそこまで徹底的に旧日本政府を叩く理由を見出すことが出来ない。恨みでもあるのか?」とメイス大佐。
「勝つことを見出せない軍部と政府が沖縄陥落時に自らの命を責任として敗戦を受け入れていれば、100万人以上の命が助かったかもしれない現実に対して、何の責任も取らず自らの利益にのみ走る輩にはきっちりとケジメをつけなければ、全く無駄に亡くなって行った人に対して申し訳が立たないと思ったまでです。」
メイス大佐を見据えて俺は言葉を噛み締めながら話した。
「Mrシミズの行動には自分の利益より、何よりも行方を見失っている人々を安心させ、確かな未来に歩き出させるような意思が感じられていたが、その根底にある断罪の斧は時として我々にも向けられるかもしれない事を真摯に受け止めておく。今回の君の働きは大したものだ。後は不自由かも知れないが3月3日までこの横須賀基地にゆっくり逗留してくれ。4日には堺基地まで送らさせてもらう。」そうチャール少将は俺とお嬢を交互に見ながら話した。
後は「暁の猟犬作戦」のおおよその範囲と広範囲気に及ぶ政府機関の没落後における再構築の方法と人事権の掌握に対する効果的な手法などを話し合い、並行して海外からの食糧調達手法の披露と食糧物価のインフレ鎮静化を目的とした販売方法などを伝授することにした。代替食糧が多様化すれば「米よこせ」運動も大きな騒動にならないし、「暁の猟犬作戦」による膨大な資金の回収によって、有効な日本版ニューディール政策も実行されるかもしれない。もしかすると、西郷隆盛や坂本竜馬が望んだ市民革命による真の民主化による自由市民が育つ日本が出現するかもしれない。
巨悪が生き残る日本では戦争の歴史を抹殺し、何の反省もない日本人が教育される未来しか見えない。
次々と俺の引き出しが引き出されて、色々な検討をされていく。
特に南朝鮮の動向に関しては、チャール少将は俺の予測に驚嘆していた。現実は未だ中国は国民軍が大優勢であり共産軍の大陸全土の支配を感じさせる兆候はない。しかし、南朝鮮では共産主義主導による反乱があちこちで勃発し始めている。が、それに対する有効な手段が連合国の間接統治ではうまく機能しない現状である。
もし、俺が予測した流れで歴史が動いたなら、朝鮮半島で戦乱が起きることを避けられない。G2はその未来に対して密かに備え始めた会談がこの会談であった。




