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 昭和21年2月26日の町中の金融機関であるとある郵便局前の風景 

「金融緊急措置令」が公布されてから直ぐに人々が長い列を作り始めた。「お金(紙幣)が紙くずになってしまう。」そんな話は直ぐに広まる。

 銀行の取り付け騒ぎ以上の狂騒は瞬く間に辺り一面をリュクサックに紙幣を入れて、大事そうに抱え込んでいる人々が郵便局に群がり始めた。ただでさえ空襲によって郵便局自身も焼けてしまって数が少なくなっている上に、通帳も焼けてしまって新しく作らなければいけない人々も多かった。

 一から全てを始めようとすると一人に対する時間はどうしても長くなる。しかし、金融機関としては正確に処理しなければならないし、午後3時には窓口を閉めねばならない。取り残された行列からやりきれなさに怒号が飛び交う毎日だった。そんな毎日の中、夜中から朝までずっと席取りを商売にする連中も直ぐに発生する。雪が降ろうが雨になろうがミノムシになったようなムシロで覆われた小さい影があちこちで発生していた。戦災孤児にとってもただ並ぶだけでいい商売は割がいい。ガチガチ震えながら夜明かしするのは生きている証のようなもの。ただ中には目を覚まさない者が偶に生じるがそれを悲しむ余裕のある者はそれ程いない。人の心も凍らせてしまう混乱の時であった。

 この状態を受け入れる金融機関の窓口も極限状態であった。現代のように機械が正確に数えて人間はその答えを確かめればいいというシステムであればどれだけ気が楽か、実際は次々に紙幣の波を際限なく数えなくてはならない。一日の終わりには誰しも指が動かなくなるまで酷使しなければ作業が終わらない。しかし、3月2日午後3時までに全てを終わらせなければ残された紙幣全てが紙くずに変わってしまう。横着な人間はそんなことはあるまいと横着に考え本当に紙くずになった現実に茫然とする。

 他方、一月10円や20円の給料で働いている女子行員にとってその重みが分かっている分誰も泣き言を言えなかった。3月2日で全てが終わる。そう信じて耐え抜くしか彼女たちに道は無かった。

 闇市では手元の現金を物に替えようと手あたり次第買いまくる者もいた。それによってさらに物価上昇は跳ね上がった。混乱に拍車がかかると言うのはこういう状態を言うのであろう。


 昼飯を横須賀基地の将校専用のレストランで取った後、長く険しい午後の会合が始まった。

 メンバーはG2が中心であった。G2は諜報が主任務であるがラジオや新聞の検閲なども担当していて、俺が仕掛けた「懺悔の夕べ」のことも良く知っていた。彼らからすれば何かやられた感が俺に対してあったようだ。

 正面にG2のチャール少将とメイス大佐という情報部トップが席に着き、右手側長机に横須賀基地の情報担当者が座り、左手壁際に

メイベル少尉という布陣であった。

「Mrシミズ、君は調べれば調べるほどよくわからない人物として出て来る。今のところ全く謎の人物であるが、そのことについては今の我々に取って問題ではない。

 Mrシミズの提示している問題はこの日本を統治していく上で看過する事の出来ない問題であるとのG2の一致した見解になった。

 これから内偵していくことになるが、旧日本帝国の年間国家予算の数十倍ともいえる金額が終戦直後の8月15日以降日銀造幣局によって印刷され、軍閥企業、財閥、軍関連など旧日本軍関係に膨大に流れ込んでいる状態を隠ぺいするために退役軍人に対しても過分な報奨を出している事実が現在の悪性インフレを招いているという認識は我々G2に取っても悪夢のような事実であると確認し厳重な緘口令のもと一網打尽にするべく「暁の猟犬作戦」として行うことになった。」とチャール少将がニヤリと笑いかけて来た。


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