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「なるほど、通常そんな低税率の団体を調べる経費を考えると一般財務の人間を当てるには持ち出しになってしまうから、特別財務官の創設。 しかも、政治団体を含むあらゆる所に特別監査の強制権を持つとなると、組織的には凄く嫌われそうだし、色々な危険も半端ないかもしれんな。」
とダラス次長はボソッと俺に向かって話しかけて来た。
「その為、裁判所のような独立したシステムを作り上げて、他からの干渉を受けないものにする必要性があります。それの別の姿として企業における経営者と労働者の仲裁と強制査察権を持たして全国に網羅していく。大変強力な独立機関ですが、正しい運用を身につければ日本の良心とも呼ばれていい組織となります。当然行政組織そのものを査察する査察権も付けることも付帯させておきます。
それが独立した組織にしなければならない訳です。その組織運営費を通常予算として1%の税金と査察による不法蓄財の強制徴収が予定されるという仕組みです。」
「しかし、何故、このとてつもなく忙しい創生日本の時期に作る必要がある?」とダラス次長の横に座っていたカーディナル少佐。
「政府の形を作っていく今の時期以外に、というかGHQ以外にこんな厄介なものを政治家も役人も作る訳ないと思いませんか?」
「なるほど、それで日本の良心な訳か。パンドラの箱の最後に出て来たスターという訳か。」とダラス次長。
結局、先ずは「暁の猟犬」作戦に従事させるための下部組織として編成することになった。「暁の猟犬」とは、国家反逆罪としての大量紙幣発行事件を取り調べるチームのことである。
「そろそろお昼になったので今日の所はこれぐらいにしておくか。」とダラス次長。
「それでは私の用意した料理がありますので、ちょっと試食して欲しいのですがよろしいですか?」と俺が申し出ると、
「ほおー、大将からMrシミズは大変料理に通じていると聞いているが、是非こちらからお願いしたいところだね。」とダラス次長。
それで、メイベル少尉にお願いして朝早くに仕込んだ寸胴を調理室から温めて配膳してくれるようお願いする事になった。
会議室に持ってきてもらった寸胴から容器に取り分けて各自に味見をしてもらうことになったが、一口、口をつけただけで皆憮然とした顔つきになって俺を睨みつけた。
「これはどういうことだ!」とダラス次長。
「この味が日本人の知る小麦の味です。食糧が不足していて餓死しないように食べてはいるが食べられたものではない。つまり、日本人に取って世界の主食の穀物王である小麦を食べこなす術を知っていない事を意味しています。至急パンを焼くための施設と職人と先ず利益はトントンでもいいと考えるアメリカの冒険的企業を紹介していただきたい。日本人が飢えているこの時期であればパン食は一気に日本中に広がります。しかし、小麦生産の大国はアメリカです。程よい依存関係を築くには絶好の機会だと思われませんか?」
「ここでの話は口外禁止だ。分かったな!」そう言ってダラス次長は俺の正面にやって来て、右手を差し出して握手を求めて来た。
「お前は想像以上の悪人だったようだ。」と握手をしながら俺の耳元でささやいてから彼は部屋を出て行き、今日の午前の会談は終了した。




