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一方東京では、「ミッチェルのところのあの面白れぇ小僧が顔見せてぇったぁ、どういう了見かねぇ、気晴らしに丁度いいから段取り取りな!」などというマックバーガー大将の鶴の一声で急遽、会議の時間を作ることになった。
寝耳に水のGSとG2のメンバーは大至急「シミズケンゴ」という人物の身元を調査する事になったが、該当する人物が見つかったものの、その知識の広さや語学力の能力などの高さ、大田村で行っている事業の隙のない構築力などGSに取ってもG2に取っても驚異的な人物であり、不可思議を通り越した謎の人物であった。
ただ困った事には、この混乱した日本にあって時代の趨勢を見越した様な様々な手法が、大田村の地域に限って見事に適合して、戦後の混乱をいち早く収拾していることと、理路整然とした話に付け入る隙が無いような説得力を持って、堺基地のミッチェル准将及び副官のヘルメス中佐を始めとして、マックバーガー大将まで関心を持っていることであった。しかも、恐ろしい事に本国アメリカの大手新聞社に大々的な日本人として破格の謝罪広告を出し、日本人に対する関心と憐憫、寛容な心を多くのアメリカ市民に抱かせてしまっていた。これ程の政治力や行動力を無名の一市民が持てるはずはないと思っても、一向に政治的、軍事的背景が繋がらない人物。
そんな得体の知れない人物とボスを挟んでの会談とはどうにも気が乗らない。特に諜報部を持つG2のチャール少将としては自分の参謀2課の力が劣っていると見られるようでどうにも気分が悪かった。マックバーガー大将の客じゃなかったらしょっ引いて何者かを何が何でもゲロさせてやるのにとチャール少将はギリギリと歯ぎしりを鳴らすのであった。
一方のGSを束ねるヒューストン局長とダラス次長にしても現在は日本の民主化と永久戦争放棄を日本の国是とする柱を建てるべく奔走中であるが、本来はニューディール政策にも関わり経済の専門家を標榜していた二人に取っても日本の現状を根本的に立て直すための道筋が見つけられなかったため、そちらは全くの手つかずに終わっているというのが正直な感想であった。そこに一部地域とは言え驚くほどの経済的平静と発展を見せている代表者の若僧がこのGHQの牙城に乗り込んでくるという状況は、自分の能力の低さを見せられているようでどうにも落ち着かない気分にさせられていた。いったいどのような考えを持って「シミズ」という男はGHQにやって来て、マックバーガー大将やGS、G2の強力な壁に穴を開けようとするのか。もしくは敵対する事無くおもねるだけの事案を持って訪れるだけであろうか?事前の話がほとんど無く、この忙しい時期に割り込んで来るほどの用件とは何であろうか?
ヒューストン局長は切れ者のダラス次長と話をしても雲を掴むような頼りない考えしか出て来なかった為、全ては出たとこ勝負という知恵者としては少し心もとない二人であった。
堺基地から飛行機で横須賀基地に入るのは2月25日昼頃でそのままGHQの本部迄車で移動して、夕方から話が始まるという強行日程である。相手が疲れで頭の働きが鈍っていれば遠慮なく潰すことが出来るなと少々意地の悪い考えを持つ二人であった。




