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「端的なお答えありがとうございました。これから先は私の考えであり間違っている可能性も多分にありますが、話してもよろしいでしょうか?」
ミッチェル准将の表情を伺いながら、先を話せと言う仕草を確認した後で
「GHQの日本への本旨は日本及び日本人をもう二度と戦争は起こしたくないと心に刻み付けること。その為に政治、経済、文化、精神まで徹底的に平和を望むような枠組みを作り上げること。だと私は考えます。ところが実際の日本人の多くはその日々の食糧にも事欠きワイマール後に出現したドイツの様相を見せています。この状態をGHQはどう考えどう対処するのかをお聞きしたいのです。
GHQの基本的方針は間接統治ですが、この混乱をどう解決・収拾するつもりなのか。こんな若造が偉そうに話す内容だとは思ってませんが、普段良く話し合っているベーカー大尉となら忌憚のない意見を頂けると思って相談に伺いました。」
ミッチェル准将は俺とベーカー大尉を交互に見ながら
「おい!ヘルメス中佐はMrシミズの話を聞いてどう思う?」
「はい、Mrシミズの話す内容と態度は普通の若僧ではないように思えます。そして、相談と言いながら自分の中にはこの途方もない難題について一定の解決策を持って話を挑んでいるような、私のような頭の固い年寄りには考えつかない策を持った容易ならざる人物と見受けられましたが。」
怜悧と言っていいほど頭の切れるミッチェル准将の懐刀であるヘルメス中佐は瞳を動かした視線だけの動きで俺とミッチェル准将の交互を見ながら応えた。
「付き合いの深いベーカー大尉はどう思う。」
「Mrシミズは見た目と頭の中身が驚くほど違います。なめてかかったら痛い目にあわされる第一級の危険人物と言えるほどですが、その心を知り信用すればこれほど深く先の見える有能で信頼できる人物に私は会ったことがありません。」
歯の浮くようなベーカー大尉の言葉に思わずマジかと俺は目を見張ってしまった。隣に座っているお嬢も思わずニンマリしたような気配が・・・。
「確かに、君から聞いた最大限の賛辞だな。わかった。Mrシミズ!君の持っているカードを見せろ。この場の誰も想像つけられん。それによって君の策をGS(注1)とG2(注2)に持って行こう。」とミッチェル准将。
「ありがとうございます。先ず最初はこの悪性インフレを起こした最大の原因を叩く事が喫緊の事案です。これには政府に対する強力な強制力が必要となります。仲の悪いGSとG2は一切の情報を漏らさず協力して同時に行動を取ってもらう必要があります。つまりマックバーガー大将の強力なリーダーシップ命令が必要であるという事です。命令違反は即座に更迭する位の覚悟が要求されます。以後日本の統治が驚くほど容易になるかならないのかの歴史的分岐点になったとの後世の評価が、マックバーガー大将に付くことになるでしょう。」
俺の広げた大風呂敷が司令官室に広がった瞬間であった。




