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親分の「われ、一言でもゆうたら、いてまうぞー。」という強硬な雰囲気が変わったのは、目力お嬢と愉快な親衛隊の5人が俺の後ろに近づいて来たためであった。
「My lady. What's the interesting event today?」(お嬢、今日の面白いイベントは何かな)
「To make Japanese gangsters pay their respects.」(日本のギャングをギャフンと言わせる事)
「That sounds pretty interesting.」(そりゃなかなか面白そうだね)
「For now, just go along with what I'm saying.」(取り敢えず、私の話に調子を合わせればいいわ)
「I understand. My lady.」(了解いたしました。お嬢様)
俺のすぐ後ろまでお嬢が来るといかにも有能な通訳のように
「彼らはGHQの要請に異議を唱えているのですか?」
ハッキリした声でお嬢は俺に問い詰めた。
「彼らは正式な地権者なのですか?あなたには正式な日本政府から発行された地権者の了解をとれたという文書と地権者の同意書を提出して頂いてますがどういった仕儀になっているのですか?説明を求めます。」
とさらにお嬢は親分に聞こえるように俺に問い詰める。
「すいません。ちょっとお待ちください。彼らの言い分を確認いたします。決してGHQに逆らう様な真似は致しませんので。」
お嬢は親衛隊に
「He listens to what the other person has to say and then decides how to cook it. Just nod in silence」(相手の言い分を聞いてどう料理するかを決めるそうです。黙って頷けばいいよ。)
親衛隊の4人がうんうんと頷く。ホント、お前らよく躾けられてるなぁ~!
「親分さん、正式な地権の書類を持ってGHQまで明日にでも出頭頂けますか?担当将校にも出席頂くようにお願いしておきますのでよろしくお願いいたします。」
「If you have the official title deed, bring it to GHQ on Midosuji
tomorrow. The officer in charge will verify your claims.」(正式な権利書を持っているなら御堂筋のGHQまで明日もってこい。担当将校がお前らの言い分を検証する。)
後ろから適当な英語訳が流れてくる。
その話を聞いて親分の目がきょどる。そしておもむろに
「分かった、明日午後からでもGHQまで話付けに行ったるからその首根っこ洗って待っとれ!ボケッ!」
そう親分は啖呵を切って小屋に戻っていった。
後ろから
「I'm sure they'll discuss running away at night.」(きっと夜逃げの相談するでー)実も蓋もないお嬢であった。
翌日早朝に篠原姉妹の実家跡地へトラックを乗り付けると、そこには有刺鉄線の付いた杭も小屋も綺麗さっぱりなくなっていた。
きっとまたどこかの寒空の下、懲りずにやっているのだろうなぁ~あいつら!それが日本の現状なのだ。
でも、昨日の虎之助は随分と喜んでいた。大田村へ帰り着くなり可憐な方のお嬢に知らせる為に、一直線に飛んで向かって行った。
「お嬢の帰る場所守れた~。」と叫びながら。青春だねぇ~。




