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 和歌山の良いところは冬でも雪が積もることがほとんど無い所であるのだが、反面一年中仕事をするのに問題が少ないという働き中毒の症状を持つ者が多いという欠点もあった。

精神的にバブルやのゆとりだのが詰め込まれている俺にとって、この時代にやって来た初期の頃の難しい時間をやり熟して、ほっと一息したい時期であった。が俺の横には常に鬼の軍曹がいた。

見た目はスタイリッシュで170センチはあるこの頃の女子としては背が高く、姿勢が素晴らしい。美人であるし頭もいい、腕っぷしも俺より遥かに強い。服装は今時としては珍しいスラックスが多い。何でも投げ飛ばすにはその恰好の方が都合がいいとのこと。

 お嬢!お前は誰と戦っているンだ。お前の瞳を見るとはるか昔にはやっていた炎が揺らめいているンだが。

 でもね、俺はゆとり人間だからたまにはボーッとして釣りなんかを楽しむ時間が欲しいのだ。一応食糧供給には貢献するつもりもあるし。

それを次から次へと仕事増やしやがって、俺の休む時間が無くなるっているじゃないか。そんなに使命感に燃えなくていいから、お願いします。

と、こんな感じで昭和21年1月は過ぎていった。

 そういった日々の中、五陵さんから連絡があり、美術品譲渡の引き合いが相変わらずあり、銀行業の片手間ではさばききれないくらいの数となってきたため、専属の行員をつけることになったという話を聞くことになった。新人行員の月給は現在80円だったが、物価は容赦なく日々上がってきていた。12月に10キロが6円だった米がもう12円を超えてきている。普通の家庭では到底手に入らない高値の花になりつつある。もちろん一般の配給ではほとんど見られず芋ばかりの配給しかない。それでも海沿いの街であればイワシが配給される。戦時中は漁に出ることも燃料の関係で不自由だったがそれによって魚資源はかつて無いほどの豊かさを示していた。こういった資源を基にして栄養失調を改善させることも可能なはずなのに、なぜ議員や役人は憲法や政治機構の事ばかり議論するのか。

 話が横道に逸れてしまった。五陵銀行の美術品渉外係りとして配属されて来た新人は久保田春蔵という20代を過ぎたばかりのヒョロっとした若い行員であった。大学の学徒動員には賛同せずに酒の醸造の研究にいそしんでいたおかげで招集にもお目こぼしがあった様で、研究室で新しい酒の試作を行っていたという経歴の持ち主であった。ところが、米不足で酒の研究が中断された結果、伝手を頼って五陵銀行に勤める経緯になったらしい。

「この度、五陵銀行に新たに出来ました美術品渉外係りに任命されました久保田春蔵と申します。清水代表には初めてご挨拶させていただきます。若輩者ですがよろしくご指導のほどお願い申し上げます。」と深々とお辞儀をする、久々の真面目タイプの人物が登場したのであった。


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