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所得制限と男性のみの選挙権がGHQ民生局主導で全ての成人に解放され、選挙が行われた年でもあった。
大田村に向かうトラックを運転しながら、来月の21年2月に行われる新円切り替えの影響を再検討している時に、お嬢が
「清水さん、なんやまた、えらい悪い顔してはりまっせ。」と。
その後、へっへっへっと続きそうな雰囲気でお嬢はしゃべりおる。
お前はやりてばばあか!と思わず口に出かかったが高貴なお嬢様に不敬であると思い直して自重した。俺えらい!
「今年は日本の未来が形作られる大事な年になる。もちろん大田村商事も大きく変わっていく。香奈子お嬢も部門の責任者として引っ張っていってもらう様な立場になるやもしれんから気をしっかり引き締めて今年を乗り切って欲しい。」と俺が訓示を垂れると
「代表、私はあなたのそばで悪だくみのお手伝いがしたいです。代表がこの国をどういう風に変えていくのか、もしかすると世界までも変えていくのか、こんなおもろい人間に会うたのは初めてどすえ~。」
お前はどこの京都のお嬢やン!
「で、何が聞きたいンや?」
「あれほど気難しいと言われていたマックバーガー大将をどうやって丸め込んだんですか?今でも信じられない事なんですが。」
「マックバーガー大将の悩みをちょっと解決したことと、日本人との付き合い方を伝授しただけのこと。俺が次にアメリカですることも了解してもらった。」
「来月にアメリカの大手新聞社数社に全面広告を出されることですか。」
「2月14日に一斉に打つ契約が完了したとの連絡がラスカル少尉から入った。彼の親戚は実にフェアで誠実だった。今後とも長く商売の友として利益を分け合う価値を知っている人だ。」
「ラスカル少尉は確かに頼りないけど、誠実な人柄がにじみ出ていますからね。」
「それ、ほめてる?」
「評価しているだけです。」
「ラスカル少尉、香奈子お嬢のこと大変ほめていたよ。凛々しい真の大和なでしこだって。ひょっとすると、お嬢の親衛隊に入っているかも知れないよ。」俺はこの件は、彼に伝えない事とした。
「広告の件は誰にも伝えない事。いずれ分かる事になるだろうが今はまだ命を狙われるのは勘弁して欲しいからな。」と俺。
「確かに、頭の固いバカからすれば国辱者呼ばわりされるかも知れませんものね。でも、そんなことでアメリカ人の日本人に対する対応が劇的に変わるのでしょうか?」
「元々アメリカと言う国は多くの国からの移民で構成されている国なのはお嬢も知ってることだと思うが、個人の判断力、感情によって国の方針が決定されている。日本は宣戦布告をせずに戦争を始めパールハーバーで多くの軍人、市民を殺してしまった。
それを大々的に政府が戦時国債を売り出す広告として利用し国民に深く浸透させてきた。その熱を冷ますには、『自分たちが日本人に対する報復はやりすぎだったかもしれない。』と目で見える形で個人の良心に訴えることがアメリカ人の心の流れを変える為にはどうしても必要だと俺は考えているから、俺のわがままを通した。
大田村の爺さんにも了解は取ってある。爺さんも写真を見て涙を流していた。存分にしろと言って。」
お嬢は俺の言葉を聞いて
「だから代表の側はおもろくて離れられないンです。」
親愛の情を示すのにレバー打ちはやめろ!お嬢はやっぱり体育会系だった。




