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大田村への帰り道途中で村長が

「清水よ~、あんな事知事はんに言って何ともあらへんか?わしゃ寿命が縮まったよ。慌てて三途の川渡りかけたぞ。」

「かまへん、かまへん。権田知事は今は自分の身が何時GHQから追放されるかと、そればっかり心配しとります。もう、うちらを呼んだことさえ忘れてはりまっせ。顔色もあこーなったりあおーなったり、随分忙しそうにしてはりました。当分うちらに、ちょっかい掛けるだけの暇はあらしまへん。」

「清水よ~。その微妙な関西弁何とかならんのか~。」

「もうかりまっか。ボチボチだんな~。おおきにさんどす。ただいま関西弁修行中。だんな~。」

村長も権田知事の様子を思い浮かべながら、頬を緩めて帰る大田村。まだまだ春は遠い年初の一幕でした。


 まだ受け入れ態勢が整ってえーへんから来るのは早いっちゅうとるのにお姫様がやって来た。どうせいっちゅうんや。慣れてない関西弁を駆使して愚痴っている俺です。

 1月7日に京都の別邸から俺の忠告を無視して、小雪のちらつく大田村に南園寺香奈子お嬢様がやって来た。相変わらずの破壊力のある目力である。

「今のところ暖房などほとんどない簡易宿舎のような建物しか確保できていないので、春先の暖かくなった時分にこの村に来て仕事を始めたらどうですか。」と言っているにも拘らず、

「俺の下宿先に空きがあるならそこでかまへん。」と言って、逗留先である網元の鈴木さんの家に案内させ、あっという間に下宿を納得させやがった。こいつ何者ンや!心臓に毛生えてへんか。

黙っていれば楚々とした・・・目力つえ~。お嬢様で通るのに。

 取り敢えず、アルマイトの水筒を利用した湯たんぽは貸したる。風邪ひかれても困るしな。目力お嬢としては、俺と言う人物を知るために当面は秘書役として金魚のフンを決めたそうだ。俺代表だったよなと思いつつ、目力つえ~、押されてしまった。

昭和21年の今年は春先から波乱含みの予感がするンだな。


 香奈子お嬢様の服装はまるで宝塚の男役風でとっても雰囲気バッチリ。最初ツンケンしていた鈴木家の娘、真知子もリンとした風情を持つ目力お嬢に挨拶されただけで、頬を染める。俺そんな態度してもらったことあらへんで~。全く!

 まあしかし、香奈子お嬢様こと目力お嬢は仕事に対する意欲は半端じゃない。大田村の同じ下宿先に決まった後、大田村商事の仕事内容や今後の方針から日本の行方、俺の考え方を知る為か全てゲロした方が楽だぜ~。と言う様な取り調べが続いたのだから。

目力お嬢の気持ちも分からん訳じゃないから、落ち着こうね。

 戦前の女性は人間として認めてもらえていたかと言われれば子供を産み家事をし、時には愛玩物としての価値しか認めてもらえなかったと言うのが正直な社会的認識だったのではないだろうか。

 敗戦によって、ようやくその価値観が壊されようとしている現在、一般男性よりは遥かに能力を持っていると自負している目力お嬢に取っては当に千載一遇のチャンスとして捉えているのだ。戦国時代なら初陣のようなものか。分かるから鼻息は抑えてくれ。ドウドウ。


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