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大田村を取り巻く人々から100万円(令和時代換算約10億円)の事業債が11月の公募発表から一月も経たない12月早々に難なく集まった事を報告すると会場は一気にどよめいた。
それは、この村の事業がどれ程皆の期待を背負っているかを表すものであったから。
「以上のように大田村の戦争帰還者や縁故者の増加はこの村の人口の倍増させる勢いがあります。けれども、誰も飢えることのないような施策がこの村では実現できていると確信しております。いかがですか。」俺がそう発言すると会場は拍手が賛同の掛け声と拍手が鳴り響いた。
「来年の昭和21年は戦後の混乱はさらに続くことになります。続々と海外からの帰還兵や帰還してきた海外移住者が戻ってきます。しかし、それを支えられる食糧生産が十分ではありません。
農民による食糧生産の意欲が湧き上がらないからです。作っても政府に買いたたかれて、地主に多くを持って行かれてしまう。増産しても生活はほとんど向上しない。
そんな状態で農民になろうという人間がいない状態を打ち破るために、GHQからも強い要請がある農地解放制度を来年はさらに強化してくる施策でしょう。もちろん、大地主が断ることが難しい条件をつけることを法律で定義することで。
その手段として今まで選挙対象になっていなかった貧しい人や女性を選挙人として規定し新しい制度での選挙も行われるでしょう。
このインフレを止めようと強引な手法の金融制度も実施されるでしょう。日本中の人々が飢えによる暴動を起こすかもしれない。
戦時中政府は都合の悪い情報は一切隠していた。それだけではなく、噓の情報を発表して正しいことと強制してきました。
戦後GHQによって大分ましになって来ましたが多くの役人はそのまま行政府に居続けている状態です。まあ、当大田村役場でも皆さんのご存じの人間はほぼ変わっておりませんが、けれども村にかかわる人を大切にするという意識は一変しました。
一方中央政府の役人の意識は本当に変わっているのでしょうか。
軍部がGHQに替わっただけだと認識している役人がほとんどであると私は見ていますが、皆様はどう感じていますか。
我々大田村役場及び外郭企業の人間は来年も村民を守るために誠実に信頼を少しずつ積み上げていく事に全力を注ぎます。
来年になれば各方面からの横やりや足を引っ張ろうとする人が出てくるかも知れませんが、嘘偽りなく大田村の住民やかかわる人々が安心して過ごせるような昭和21年とするよう努力していきますので、どうか皆様も大田村にご助力お願いいたします。」そう言って集会を締めくくった。
その後多くの人からの挨拶をもらったが、大田の爺さんが
「出る杭は打たれるぞ。気いつけやー。」と念押しがあったのは、確かに洗礼の前触れなのかもしれん。冷え込み始めた空気に思わずブルッとした。




