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「美術品をアメリカで販売することは、日本にも素晴らしい文化の歴史があったという意識を敗戦国だからこそ早急に米国富裕層に提示することで日本の価値を認識させる必要もあるということです。」と清水。
「価値ある国と思われる国と価値ない国ではアメリカの取り扱いは天と地ほど違いがでるでしょうからね。今の日本については手間が掛かる上に資源も何もない国としての認識しかアメリカ国民は思っていないでしょうね。」と五陵。
「ソ連のスタルヒンが東ヨーロッパの支配を確立した後、中国、朝鮮及びアジアにその支配を広げようと介入してきます。となれば日本は社会主義国家に対する最前線基地との認識が米国に生じることになると思います。
過去において英国がロシアの南下を防ぐために日本と同盟したように、アメリカはソビエトの防波堤として日本と同盟する機運になると思います。自由資本主義を掲げる日本の未来をどう描けるかが政治家、役人の見識となりますが、国家主義の暗部がそのまま生き残った状態であれば将来の日本の形も歪んだものになるでしょうね。」
「何となくわかる様な気がしますが、清水さんの認識ではそれはどういったものですか。」
「例えば、政治家や官僚にとって都合の悪い情報は改ざんして国民に知らせない。とか。戦前、戦中からの配給などの利権や国家事業とされる公共事業などが一部の人間の利益の独占になっている。GHQも内容がわからない為手を付けにくい部分は残されていくでしょう。」
「我々は出来ることからするしかない訳ですね。しかし、清水さんの見識はどこから来ているのか僕に取っては謎です。終戦から4ヵ月で日本の国事態がどうなっていくか誰もが混沌としている今、まるで未来を見据えているように明快に事態をバッサリと切り分けて考えている、大変参考になります。私は今後も精一杯清水さんのお手伝いさせていただきます。」
その言葉に送られて俺は五陵銀行を後にした。




