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 11月が過ぎ12月になり村役場内に五陵銀行の出張所も出来、一気に口座開設が進んだ頃、五陵弥三郎から俺に「面白いものが色々集まったから一度、船場の当行に来て欲しい。」との連絡が入り船場の五陵銀行に出向く事になった。

「お久しぶりです。清水さん、村は凄まじい発展ですね。日々色々な建物が建ち上がっていると報告がきていますよ。それも結構堅牢な作りだとか。

 この度の件も今の時期においては考えられない事案ですが、これが実現出来れば、将来的に我が行と大田村企業との大変大きな繋がりとなります。」

「色々お世話になっています。やはり物価の上昇が止まらなくなって来ましたね。来年早々に政府は悪い手を打って来ると見ています。」

「新円切り替えですか。そうなると清水さんの言っていた預金封鎖と出金規制がついてくる可能性が高いですね。と言って予め対策を取るのは難しいと思いますが。」

「だからこそ、今のうちに手元資金を出来るだけ物に替えることが必要なのではないですか。それにドルに対して円の価値は暴落しますから、昭和20年の現時点が1ドルにつき15円の交換レートですが、そう遠くない内に300円以上になることだって在るかもしれない。」(昭和24年からは1ドル=360円の固定相場になる。)

「つまり、1000ドルの評価の付く美術品を今のうちに村の資金を使って15,000円以内の取り敢えず1500円程の評価価格に替えて美術品提供者に食料品等の現物に変えて分割で支払っていく。

 敗戦後の生きることに精一杯の生活を強いられる現在は美術品の価値は二束三文にしかならない。ある程度公平に評価してもらえるという所であるならば、外国であっても問題ない。

 美術品提供者に取っては、その期間は食の心配をしなくて済む。この時代に大変ありがたいことだ。さらには、それを大田村の企業が自宅に届けてくれる。美術品提供者に男手がない家や、不足している家庭に取って、非常に頼りになる企業となりますね。

必要な品物の購入なども相談するようになるかもしれない。

 誰も信じられない時代だからこそ、誠実な対応をする清水さんの姿勢をそのまま受け継いだ企業があればどれだけ頼りにするか。

高価な美術品を持つ旧家は上流階級の一端を形成していて力を失っていても、その名前の価値と信用力や色々な人に繋がる伝手には、混沌としたこの時代であればより一層の価値が出てくる。

 一方、売り上げた1000ドルをアメリカ国内の品物に替えておけば数年後には、300,000円以上に化けるかもしれない事を予測して行動しているということですか。更にはアメリカでの起業を視野に入れているとか。

私もあなたという途方もない人物を知る機会ができました。

インフレが始まるからこその村全体が走り出した様な設備投資なのですね。清水さんの意図を少しだけ理解できました。」と五陵。

「食品を加工すれば統制から外れます。これからしばらくは食品加工が日本国内の主力になります。国外については五陵さんも、私がこれからアメリカ国内でしようと思っている動きを感づいているみたいですね。いい感覚を持っていらっしゃる。これからしばらくは、日本は供給力不足によるインフレと仕事そのものがないという大不況並みの経済不況に陥ります。生産施設を作り上げるまで何年も続くでしょう。しかし、需要はある。特に生きる為に必要な食糧が全然足りてない。次に来るものは衣服。住む家のない人は家も早急に必要なものです。それを生み出すことに全力をあげることが暮らしを支える基盤となる行政の仕事とならなければならない。今の日本政府は無能というより有害かもしれません。悪しき権能だけは決して放そうとしない。だから大田村は独立した政策機能を持たせる為に大田社を作り馬車馬のように今働かせている最中です。将来的には海外との連携を視野に入れています。」

「清水さんの動きは、私ども五陵銀行は全面的に応援させていただきます。銀行の資金も高度なインフレが襲ってくれば、紙くず同然になりかねません。生きるか死ぬかの時代が来ているとの認識です。より良き投資に集中する以外に生き残る道は無いと覚悟しています。私の知る優良な取引先も紹介させていただきます。今回の美術品のお話も多くの皆さんが賛同してくれました。これが目録です。」

と言って五陵は鞄からぶ厚い目録を取り出して俺に差し出した。

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