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 駅ホームでジョンソン師とラスカル少尉には手配のお礼と大田村が落ち着いたら、きちんと招待させていただきます。と話したあと、改めて慈善活動の準備ができてから資料を持ってプレゼンさせてもらいます。と言ったら、ジョンソン師はニコニコしながら親指を上げて一言「待っとる」と。リックには二・三日経ったら大田村での戦争孤児たちへの取材を依頼した。

 和歌山行きの他の車両は人でぎっしり満員に詰め込まれていたが、俺たち専用の車両は多少余裕があった。開けてもらっていた席を立ち乳児を抱きかかえたうえおんぶして女の子の手を引いた夫人や子供連れの若い婦人に座席にかけてもらい同じく席を譲らせて立ち上がった虎之助にこの度の顛末を聞いた。

 虎之助はもともと梅田大阪駅の東側にあった北扇町に住んでいたが奈良への学童疎開中に大空襲によって実家も家族もすべて失った。ここに集まった子供たちの大半はそういう経緯の子供で、扇町小学校の関係者が大半であった。疎開先から引き上げても誰も引き取り手が現れずに身を守るために、瓦礫の中に寄り添って何とかこの三月ほどを過ごしていた。そこに虎之助が食糧と住居を保証する話を持ち込んだことで焼け出されて幼い子供を持った寡婦の先生まで参加してこの話を受けることになったという顛末を座った先生がコクンコクンと同意の頷きを確認しながら語った。

 そこで俺は自己紹介として大田村の渉外代表であり、様々な事業を立ち上げている事を話し、その事業の手伝い仕事をしながら食べて、寝て、学んでもらって戦災孤児の技能を上げ、事業の成功と共に将来は高給取りになってもらうよう希望すると話すと子供たちは一斉にワッと沸き上がった。安心して泣き出す子供も多かった。家族を失い、家も失い、毎日のひもじさに未来の希望さえも押しつぶされるような日々。とにかく、厳しく寒い冬の前に栄養が足りなく体力のない戦災孤児の多くが生きて冬を越せない現実があった。ほんの一部の戦災孤児であったが、知恵を絞りだして俺の戦力として加えることが出来たことはうれしいことであった。

 そんな中、俺は強い視線を感じて目を向けると、髪の毛はぼそぼそで汚く、顔中にススと泥がこびりついた少女姉妹がいた。面長で細面のまなざしは、前世の美人女優と呼ばれていた誰よりも美しく成長するような予感を感じさせるものを持っていた。

真っ直ぐな視線を受け止めたとき、時間が止まって全ての雑音が飛んだ。俺の視線の動向に気づいて、虎之助はその子を手招いて、

「こいつ、あまりにも目立ちすぎて、こうしてないと直ぐにでもさらわれて売り飛ばされかねないんだ。お嬢、俺の兄貴だ。心配はいらない。」と虎之助。

お嬢と呼ばれた少女はまるで俺の心の中を覗き込むように真っ直ぐな視線を外さず

「お初にお目にかかります。篠原美鈴と申します。妹は百合です。よろしくお願いいたします。」と。

「あんたらは何も悪くない。国の上の奴らが無知で、無能で欲深い奴らばかりがいたから皆がひどい目にあった。これからは何でも知って、自分の能力を磨き、周りの力を集めて胸糞悪い習慣や欲深な連中を蹴散らしていくんや。あんたも俺に力を貸してや!」と俺が言うと、張り詰めていた目からポロポロと涙を流し少女は頷いた。

 この姉妹がいれば全米中のあしながおじさん列をなしそうで、ジョンソン師の小躍りする様子が思い浮かんで、思わずニヤリとしてしまいそうになる顔を嚙み潰す様子をしっかり虎之助がチェックしおった。油断ならん。


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