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更に銀行の有能君にはある店を紹介状付きで紹介して貰ってから、名前を尋ねたら「五陵 弥三郎です。以後よろしくお願いします。」と。なかなかの大物ぽい名前の為、質のいい美人画や浮世絵、美術工芸品、振袖などを持っている人物で定期的な食べ物提供を条件に譲ってくれる人がいたら紹介して欲しいとお願いしておいた。
更に英会話が出来度胸があり、冒険心の富んだ女性がいれば優遇して雇いたい。心当たりがあったら、声を掛けて欲しいともお願いしておいた。
後で名前を村長に確認したところ五陵銀行の創業家一族で将来の頭取候補の一人とのことだった。やっぱり。
銀行を出て紹介状の店で無事契約を済ませてから、地下鉄船場駅へ向かい戦災孤児が列車の切符販売の場所取りや、捨ててある煙草のゴミ回収通称シケモク拾い、ヤミと呼ばれる不正規価格販売の手伝い、すり・かっぱらいなどの犯罪など生きるために、非力な彼らが何でもする現場を見回った。
懸命に仕事をこなそうとしている孤児が時折視線を投げかける先に、よれよれの学生服を着て眼光鋭く辺りを見回す青年のような大柄な少年がいた。俺は少年の側によって「仕事を頼めるか。」と話しかけた。少年は胡散臭そうな表情をしながら、
「なんぼやねん。」と食いついてきた。
「親も住むとこもないガキで自分の食い扶持はちゃんと働いて稼ごうという気持ちのあるガキを100程集めたいと思っとる。」
「何やけつたいなはなしやな。ろくに稼げもせん役立たずばかり集めて、なんしよるんや。」
「ええか、今すぐはろくに役に立たんでも、人間何かしらのもん持っとる。時間さえあれば技能はなんぼでも身につく。俺はな、腹が立っとるんや。この国をこんなにした東条やの嶋田やの軍人のお偉いさん全員素っ裸にして竹やり持たして、万歳突撃を進駐軍にさせたいくらいや。」俺の話を聞いて初めてニヤリと笑った顔は少年の顔に戻っていた。
「にーちゃんおもろいこと言うな。木本虎之助や。ゼニ次第でその話乗ったるで。」
「一人につき50銭や、食い扶持・住む所は心配せぇへんでええて言っとき。子供かかえた後家さんも3人ほど迄やったらええで。それからこれがしばらく分の食糧や。」と言って堺駐屯地で貰ったアメリカ兵の携帯食や缶詰を取り出して見せて、その背嚢ごと虎之助に渡して「俺は清水健吾や。和歌山の大田村ちゅう所で進駐軍相手に大きな事しよか思とる。将来の子分集めや。太閤さんもどん百姓のせがれやったんや。虎よ、今は乱世ぞ。弱いもんでも知恵と度胸があれば国を獲れる。三日後にここで集合じゃ。」俺が右手を差し出し、虎之助の右手を合わせて「これが握手じゃ。約束のしるしじゃ。」
そう言って、茫然としている虎之助を置いて闇市が開かれている大阪梅田にあるマーケットへ向かった。先月まで大阪駅の東側にあったそうだが一斉摘発で現在は南側に移ったそうだが、この辺りは大阪大空襲で何度も焼夷弾を落とされて、一面の焼け野原か瓦礫の山だった。しかし、大阪駅の復員兵が加わり配給物資だけでは到底生きていく栄養が足りず、衣類や家具などを売って食糧や生活雑貨を買い求める庶民が集まり持ち主の不明な地所の瓦礫をどかしてフリーマーケットを開業していたところ、博徒や的屋などの暴力団が縄張りとして場所代を不法に徴収するようになった場所、通称闇市。
筵やひっくり返した木箱の上に商品を並べたブースが何百と続いていた。売値は結構吹っ掛けてあったものもあったが、そこそこで売っている所もあり、物価の参考とさせてもらった。というのも、必要なものは、香辛料であれ、油であれ米軍堺基地で必要なものであるから日本政府から優先的に回してもらえる環境が整っているから必要ではなかったがしかし、それに過度に甘えてはいけない事も重々承知しなければいけない立場であった。
愚直に正直で将来に対する次の明確なヴィジョンがあることを持っている者がGHQに対するアドバンテージを行使できる事を理解しなければならない。彼らは軍人なのだから。目標が明確でなければ作戦行動を取れない。




