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司会役のオハラ少尉が
「次の質問に移りたいと思います。日本国民が最も知りたいと思っている質問です。共和党の滝さん、革新党の小栗さん二人に質問です。戦争中の議員であり、日本の政治を取りまとめていた二大政党の共和、革新両党の全議員が現在拘束されている件に対して選挙前に日本国民の皆様に釈明を一言ずつお話しください。」
と発言し「共和党の滝さん、どうぞ。」と促した。
「共和党の滝です。これは全てGHQによる陰謀ではないかと私は思っています。共和党は前内閣総理大臣の大原さんを始めそうそうたる人格者ばかりです。拘束されるような言われはありません。我々を信じて付いてきてください。」
「革新党の小栗さん、どうぞ」
「革新党の小栗です。我々政治家は命を張って国民の生活を守るために日夜励んでおります。GHQの横暴に身を挺して抗っていく所存です。我々革新党を最後まで信じて付いてきてください。例えこの放送の後にこの小栗が拘束されようと、私は一向に気にしません。」
「滝さん、小栗さん。このラジオ討論の発言で拘束されることはありませんよ。それがアメリカを中心とした自由主義国家の基本です。但し、共和党、革新党の代議士が拘束された理由は、各議員に対して10~100万円(1~10億円)の戦時一時金が8月15日以後に支払われている件と支払うことが出来ない敗戦国の戦時国債が議員や軍人、軍事財閥、一部財閥にだけ償還されている事実が多数の官僚の告発により明らかにされたからです。これが原因で異常な物価上昇が起きているとGHQの経済専門家は断定しています。国民の暮らしを守らなければいけない代議士が自らの暮らしの為に日本国民を裏切っていると言えるのではないでしょうか。」とオハラ少尉。
顔を歪めている滝、小栗の二人を横目で見ながら、視線を移して
「労働党の田端さん、革命党の新崎さんにお聞きします。お二人とも共産主義を本文とされていますが具体的なお手本とする国を教えてください。それからどのような国造りを目指すのかを簡潔にお話しください。」とオハラ少尉。
「労働党代表の田端です。我々はソビエト連邦のような平等で豊かな国を目指して活動しています。共産主義の良いところは誰もが平等に生産し生産物を分け合える国造りが出来ると言う点です。金持ちが威張る世の中ではないという事です。生まれによって金持ちや権力者になるのではなく、全ての人が平等に仕事につき、選ばれたものが指導者となって国民を導いていく理想的な国を目指すということが共産主義なのです。」穏やかでしっかりした口調でラジオに語り掛ける姿勢は、長い獄中生活で鍛え上げられた精神の裏付けがあって人の心に訴える力が強かった。
「革命党の新崎です。ソビエト連邦共和国が我々の目指す理想の国であり、全ての国民を優れた指導者によって一気に豊かで幸福な労働者で溢れかえる国としてこの日本を復活させることが出来る唯一の思想であると私は断言いたします。革新党こそが日本のただ一つの希望なのです。」
やや神経質そうであるがカリスマ性の高い口調とギラつく目つきが思想を現実に当てはめようとする危険な匂いを感じさせる人物。
新崎吾郎。




