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次にアナウンサーから紹介されたのがG2(諜報)の若手のエースと呼ばれているチャールズ・オハラ少尉であった。彼はラジオ放送がもったいないほどの容姿が整いハーフとしての良いとこ取りしている男であった。目鼻立ちがスッキリと凛々しく、短く刈り込んだ黒髪と茶色い瞳が僅かに日本人の血を感じさせる足長ボーイだ。もちろん彼が放送局に現れただけで、局中の女子の視線は彼に釘付けになるほどG2の中では異例の人気を博している。母親が移民二世の日本人であり流調に日本語を話せるポイントも高い。しかも相当クレバーな人間としてG2の評価も高い。更に声が大変甘いのである。あまり近くには置いときたくない人物と言える。しかし、この討論会を仕切る人物でもあった。
アナウンサーから紹介されたオハラ少尉が今日の討論会の司会兼取りまとめをさせていただきます。と自己紹介をした後、一人一人に質問をしてその答弁をラジオの視聴者に聞いてもらい他の人の反論を一言言っていただくという形式の討論会ですので、分かりやすい返答をお願いします。と話すと全員が同意し番組が進行していった。
「4月の選挙について各党より一言、国民の皆様に施策、方針など分かりやすく表明お願いします。先ずは先月まで総理大臣を出していた共和党の滝さんからどうぞ。」と柔らかい言葉でオハラ少尉。
「紹介に預かりました私は共和党の滝廉二郎でござます。共和党は国民すべての食と仕事を満足させることを党の目標としています。」
「では現役の代議士が全てGHQにより拘束された革新党の小栗新之助さんどうぞ。」とオハラ少尉。
「拘束はあくまで容疑の段階であって罪は確定していない。私は革新党の暫定代表として強く抗議いたします。」と小栗。
「私は革新党の現役代議士の全員が「国家反逆罪」と「詐欺」の容疑で拘束されているとは紹介しませんでしたが言葉が足りなかったですか?先ずはラジオをお聞きしている国民の皆様にこの選挙に臨んでどのような施策を持っているかをご披露ください。」とオハラ少尉。
ラジオ放送が生で全国に向け放送されていることを思い出して、顔を真っ赤にするほど必死で感情を抑えながら
「革新党は全ての日本国民の生活を守り、豊かな未来を目指して日々努力する政党です。4月の選挙には革新党の候補者に投票お願いします。」と小栗。
「では労働党の田端善治さんどうぞ。」とオハラ少尉。
「私が労働党代表の田端善治です。全国の労働者諸君、我が党は全ての労働者に生きる為の仕事と食糧の確保を目指しています。輝かしい未来を創る我が党をご支援ください。」と田端。
「では革命党の新崎吾郎さんどうぞ。」とオハラ少尉。
「革命党の新崎五郎です。我々は労働者による一党独裁を目指し、あらゆる労働者が平等に全てのものを分かち合う国を目指しています。金を持った権力者や資本家は全て無くしていく事が我々の目標である。4月の選挙では我が革命党だけを投票してくれ。」と新崎。
「では最後に民主経済党の山沢洋一郎さんどうぞ。」とオハラ少尉。
「ご紹介に預かりました民主経済党の山沢洋一郎と申し上げます。私は長らくアメリカに暮らして来て、この国がどういう方向に変わっていくかがはっきり見えています。例えば米は3000万トン足りなくなるという試算がGHQにおいて出されており、それに対してどういう解決方法があるかという目論見もあります。また、この凶悪な物価の上昇が旧帝国政府による膨大な紙幣の乱発によって起きていることも理解しています。方法詳細は後の討論で表明致します。」と山沢洋一郎は大変良く通る低い魅力的な声で答えた。
ルックスと言えばどこにでもいるオジサンの域を出ない平凡な感じなのだが、声がめちゃめちゃ渋くて心に響いて来る感じであったので、彼をこの討論会に白羽の矢として立てたのだ。




