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 ベーカー大尉に大阪方面に出る車があれば、乗せていってもらえるとありがたい。と話すと、お前のように図々しくアメリカ軍に対して要求する奴は初めてだよ。と両手を広げて驚いたようなポーズをしながら、部下に命じて大阪まで送ってもらえることになった。

 そしてそれは偶然なのかランセル中尉の先遣隊で会ったことがあるボッス軍曹であった。新しい食材を調達しに大阪の方に行くと言うと、知らせてもらったら村まで食べに行くと食いついてきたので、試作品が完成したらラスカル少尉から知らせてもらうようにする。と話すと笑って親指を立てられた。

 大阪は何度も大規模な空襲があり、死者行方不明者が3万人以上であった言われるほど壊滅的な打撃を受けていた。けれども、船場界隈は空襲を免れて、従来の大阪の街としての面影が残っていた。

 船場にある旧第百銀行が五陵銀行に戦時統制された船場支店があり、その目の前でGHQのジープを止めてもらい、ボッス軍曹に親指を立てて、「センキュー」と誰にでも分かる英語でお礼を言うと、ボッス軍曹は笑いながら手を挙げて去っていった。

 銀行の方はどうかというと守衛が慌てて銀行内に駆け込んでいき銀行の明らかに偉そうな人物以下ぞろぞろと入口に様子を伺いに現れた。

「お出迎えされる程の者ではありません。支店長さんにお会いしたくて寄せていただきました。」俺がそう話すと、

「先ずは応接室までご案内させていただきます。」と如何にも有能そうな行員が東京弁で話してきた。

 支店の奥にある応接室に入ると、綺麗な女子行員がお茶を持って現れ、続けて恰幅のいい50才くらいの人物が入ってきた。俺を単なる若造と見ずGHQと大変親しい要注意人物と認識したようだった。

 彼はこの船場支店の支店長であり、俺がどういう身分の者でGHQとどう言う繋がりがあるのか尋ねて来たため、俺は大田村の村長に村長印を押してもらった大田村渉外代表者で村役場の渉外一切の責任者である委任状と、米軍堺基地における食品供給と食事提供の店を基地内に出すという契約書を提示して、大田村に五陵銀行の大田出張所を出してもらえるように打診に来たことを話した。

 受けてもらえれば、大田村村民の大部分が銀行預金口座を開設する運びになると思う、更に将来的にはアメリカ本土との様々な取引契約が行えるようにしたいと話したところ、支店長の顔が張り付いたようにぎこちなくなった。まるで想定外の話だったのだろう。ちょっと待って欲しいとの話を手で止める仕草をして、入り口で会った有能そうな人物を呼んで一緒に聞いてもらうことになったのだ。

 俺もだいぶ話を端折ってしまった気がするため、一つ一つポイントを確認しながら出張所開設のメリットと今後の大田村の動向、村の出資する第三者企業としての設備投資及び基地取引の拡大の展望、更に日本の膨大な数にのぼる復員兵に対する制限のない紙幣乱発は第一次世界大戦後のドイツのような状況を再現させるとの経済の動向についてサラッと話した。あと大田村に貯蔵してある米を担保に大田村近代化のための融資もお願いした。

 俺の話の投融資の確実性と先見性に有能君は支店長に自分の首を掛けてもこの話は乗るべきだと断言した。占領軍の関西侵攻3か月を経たない間にここまで占領軍とパイプを繋げた日本人が国内にいることを聞いた覚えがない。財閥解体の話が噂されているこの時期にこの人物は当行にとっても重要人物となる可能性が高いこと。

 日本政府の経済動向に高い見識があり、正確な予見をしていること。とあまりの高評価にそこまではと思わないではなかったが、俺はうんうんと聞いていた。結局、銀行の出張所は役場内に場所を設けるから、年内に人を送ってもらえることになった。また、融資の話は大田村の現地の状況を確認してから前向きに検討してくれることになった。


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