帰還と訪れ 1
優しい夏の風が、星々を揺らしているかのようだ。
その心地よさからか、今宵は月も顔を出している。
ガラガラと馬車が揺れる。
長い長い道のりの中で、心地のいいロベルトの温もりを感じる。
ゆるい力で繋がれた左手は温かい。
目を閉じれば、たくさんのことが思い出される。
森でロベルトに出会って、森を出て、夜会に行って、お母様のことを思い出して。
そして、今は。
「月が綺麗ね。」
「そうだね。」
二人で空を見上げる。
チラリと右側を見ると、ロベルトはまだ月を眺めていた。
美しい青い瞳が月を映す。
あの瞳に、いつまでも映っていたい。
屋敷までの帰路は長いようで短かった。
その夜。
ロベルトは仕事が残っていたので、宮殿に出かけていった。
私はというと、ロベルトの帰りを待ちつつ、読書をしている。
アランとロアナは執事に剣術を教わっているらしい。
「恋と愛の違いについて?」
図書館の端っこにある、誰も使っていないような棚に書いてあったのはなんとも興味深い内容だった。
ずいぶん昔のものらしい。
埃は被りまくっているし、紙は所々黄ばんでいる。
パラパラとページを捲ると、選択肢がたくさん描かれた、阿弥陀籤のようなものが出てきた。
えと、異性を一人思い浮かべてください…?
異性…………ロベルトかな?
質問1、その人が異性と話していると気になる。
質問2、笑顔が観れると嬉しい。
などと、たくさんの質問がある。
「はい」と「いいえ」を辿っていく。
診断は、3。
次のページをめくり、3番を探す。
「恋と愛情が混ざり合っている状態。恋心を自覚すれば、愛に変化するでしょう……」
こい…
鯉…?
こ。い…
恋!?!?!?
「えっ…え?」
バサリと本が落ちる。
反射的に後退って、本棚に背中が当たった。
口元を覆う。
恋。
私が、ロベルトに?
なんで。
でも。
愛してて。
でもそれは、違う愛なの?
慈しむ愛ではなくて、そういう愛?
「ど、どうしよう…」
自分でもわかる。
多分私は顔が真っ赤だ。
顔が燃えるように熱い。
熟れた林檎のような色をしているだろう。
火照った体から力が抜けてゆく。
「これが、恋なの…?」
ロベルトに思うこと。
綺麗。
あなたの瞳に映りたい。
私をみて。
私だけを。
微笑みかけるのはあなたがいい。
あなたは私だけにその笑顔を見せてほしい。
温かい。
安心する。
私の止まり木。
私だけのーーー
好き。
大好き。
「好きなの。私、貴方のことが好きなんだわ、ロベルト。」
カナリアの瞳が煌めく。
嬉しそうな声を漏らし、幸せそうに笑う。
風が窓から吹き抜ける。
カナリアが空を見上げた。
満天の星空の下で、カナリアは銀髪をゆらし、その感覚に身を委ねていた。
***
パラパラパラ…
床に落ちた本のページが捲れる。
誰もいない図書室に吹き抜ける風で捲れたページにはー
『あなたの恋の訪れに、幸在らんことを。』
そう、描かれていた。




