女神とその騎士
なるほど、これは確かにあのロベルトが落ちても違和感はない。
アーノルドは目の前に座る二人を見て思った。
長く美しい、この帝国の王族しか持たない銀髪。
今は亡き皇妃様が持っていた左右で色の違う瞳。
スラリとした体型に美しい容姿。
実際の結果を見なくともわかる。どんな令嬢でも彼女に勝つことは不可能だと。
彼女と彼は、どんな関係なのだろうか?
二人の間にあるのは尊敬の念か、それとも愛か。
アーノルドにそれを確認する術はない。
きっと、確認してはいけない。
彼らは今の関係が、今一番いい形なのだ。
多分、第二皇女様は愛を理解しきれていない。
彼女がロベルトに抱く感情が愛だと断言できるわけではないが、断言できたとしても、彼女がそれを理解するのはもう少し先になりそうだ。
「さぁて、座りっぱなしじゃ疲れたでしょ?面白いものを見せてあげるよぉ。」
アーノルドは席を立ち、カナリアとロベルトを招いて尋問室へ向かった。
興味しかない第二皇女様の反応を想像しながらアーノルドは進んでいく。
今日1日は、刺激的な日になりそうだ。
アーノルドは胸を弾ませた。
***
いろんな場所を案内したり。
川に連れていったら、第二皇女様が水面を覗き込みすぎて落ちそうになっていたり。
それを慌ててロベルトが抱き止めたり。
それを僕は横で大笑いしていた。
なるほど、彼女の周りに自然と人が集まる理由がわかった。
第二皇女様は、お優しいのだ。
彼女の待とう雰囲気が、人を自然と寄せ付ける。
彼女の周りは暖かくて、心地がいい。
まるで、女神様の膝下にいるかのように、心が凪ぐ。
どんな荒波でも、彼女が目を向ければ、穏やかになるように。
だから、ロベルトは笑える。
だから、彼はあの頃のようにならない。
「私、ちょっとお手洗いに行ってくるわ。」
夏の日差しを避けるように作られた木の下で休んでいたところ、第二皇女様はそう言って立ち上がった。
「ついていこうか?」
ロベルトが心配そうに第二皇女様を見上げる。
人とは、これほど変われるものなのだな。
いや、これが彼なのか。
「ううん、大丈夫よ。ロベルトはここで待っていて。すぐ戻るから。」
第二皇女様はそう言って建物に戻っていった。
彼女のことだ。全ての部屋の位置も用途も記憶済みなのだろう。
「……」
「……」
ロベルトと二人残され、僕は木漏れ日を浴びて目を閉じた。
二人の間に沈黙が落ちる。
「ロベルト、第二皇女様は、いい人だね。」
「…そうだな。」
垣根のそばで、誰かが植えた朝顔が揺れる。
「ロベルト、単刀直入に言うよ。彼女とどうなりたい。」
「…はっ。不思議なことを聞く。私と彼女は、今の関係のままでいい。」
ロベルトは小馬鹿にしたような笑みで笑う。
…いつも通りになった。
第二皇女様がいないと、彼は『公爵』になる。
そう、染み付いてしまったのだろう。
「君は本当にそれでいいのかい?彼女と恋仲になりたいとか、愛し、愛されたいと望まなくて。」
「ああ。だってもう彼女は………
ぶわりと風が吹く。
「ロベルトー!」
風に乗って、遠くから声がする。
よく通る、綺麗な声だ。
「カナリア。」
ひらりと、ロベルトが手を振る。
ロベルトが立ち上がった。
日光に照らされた彼の横顔は美しい。
そして、深い海の色をした瞳の先には、美しい人がいる。
煌めく銀髪。
色づいた頬。
華奢な体。
優しく細められた瞳。
白い手が、ロベルトの腕に触れた。
ああ、なるほど。
君は、もう彼女に愛されているのかもしれない。
彼女が愛を理解していなくても。
君がさっき言いかけた言葉の続きが、わかった気がする。
「綺麗だ…」
微笑みながらこちらに歩いてくる二人は、この世の人間ではないかのようだ。
とても、絵になる。
女神とその騎士が、天から降りてきたのかと間違えてしまうほどに、二人はお似合いだ。
夏の草原で、アーノルドはそう思った。
***




