表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナリアさんの秘密のお部屋  作者: クロ
第四章 開拓
59/65

この世で一番大切な君

「ロベルト!」


屋敷に一歩踏み入れて息をつけば、階段からカナリアが駆け降りてきた。

その反動で舞い上がる長い髪も、こちらを見つめる瞳も。

落ち着いた緑色のドレスも。


真っ赤な絨毯を走り、こちらに駆け寄ってくる君が。


「ただいま。」


何よりも愛おしい。


少しかがめば、腕の中に小さな塊が飛んでくる。

そのままふわりと抱き上げた。

細い腕が首に回される。

華の香りがする。

優しい、小さな香り。

守るべきもの。


なんだか今日はご機嫌だ。


「どうしたの?なんだか今日はご機嫌だね?」


こうやって抱きついてくるのは珍しい。

何か、いいことでもあったのだろうか。


「ふふっ!聞いて!アランとロアナ、凄いのよ!」


自慢気に、それでいて嬉しそうに喋るカナリアは可愛らしい。

薄く色づいた唇がその言葉を紡いでいく。

その中に星があるのかと錯覚してしまうほどに大きくて煌めいた瞳は僕を映している。

カナリアを腕に抱えていると、階段からアランとロアナが駆けてきた。

息を切らしていることから、カナリアはかなりのスピードでこちらまできたらしい。


何か嬉しいことがあった時。

何か楽しいことがあった時。


カナリアはいつもよりも幼くなる。

雰囲気がふんわりするのだ。

それは掴みどころのないと言えばそうだが、雲のようにふわふわしている。

陶器のようになだらかで白い頬は薄く色づき、こんな風に抱きついてきたりもする。

それでも愛しいことには変わりはない。


「そうなのかい?今日は何をしていたの?」


君から君の話が聞けることが。

君がこうやって幸せに過ごしてくれることが。


何よりも嬉しい。


嬉しいことがあったら可愛くなる君が。

人の成長を何よりも喜んでいる君が。


とても愛おしい。


ね、カナリア。

この世で一番大切な、僕の宝物。


ただいま。



***



「ーだからこれは、ここに移動する。」


部屋に常夜灯が灯っている。

お風呂上がりのラフな格好をしたロベルトはアランとロアナに勉強を教えていた。

もう私は、ロベルトの話を聞くことに精一杯だ。

もう、学者並みの領域にまで踏み込んでいる気がする。

私はそこまでできる訳ではないから、ロベルトの話を聞いて理解することしかできない。

それを応用して問題を解いてみろと言われたら無理だ。

その一方、アランとロアナは着実に力をつけ、応用力を身につけ、問題を難なく解いている。


「よし。今日はここまでにしよう。もう夜も遅い。二人とも、お疲れ様だった。」


「「ありがとうございました。」」


ぺこりとお辞儀をして二人は机の上を片付け始める。

たくさんの紙やロベルトの文字がいっぱい書いてあるものもある。

トントン、と紙の角を合わせ、それを丁寧に持つと二人は立ち上がった。


「「おやすみ。」」


ロベルトと二人で手を振る。

それに二人はきょとんとした後、控え目に手を振った。


「「おやすみなさいっ。」」


そう言って、扉が閉められる。


「あの二人、凄いでしょう?」


「そうだね。あれはもう一種の才能だ。僕も抜かされてしまいそうだ。」


ふふ、と笑ったロベルトは楽しそうだった。


「そうなの。明日ぐらいには魔力を感じてもらおうと思っていて。」


「いいと思うよ。あの二人のことだ。すぐにでもやりたいんじゃないかな。」


そうなのだ。

魔法を聞いてからというものの、二人はなんだかソワソワしている。

聡い子だから、自分たちの中に巡っているものについてもう予想を立てているのかもしれない。


ロベルトは徐に立ち上がり、紅茶の準備をし始めた。

それを手伝おうと私も立ち上がり、ロベルトの隣に立つ。

ロベルトは茶葉を選んでいたので、私はカップとお湯の準備をした。


やかんの口から湯気が上がる。

ロベルトが選んでくれた茶葉を使った紅茶。

美味しいに決まっている。


二人でソファに座って一息つく。

やっぱり、二人が一番いい。


「今日、陛下と領地の受け渡しについて話してきたんだ。」


「知ってるわ。それで、お父様はなんて?」


「長くなるけれど。結論から言えば陛下は例の男爵家の領地をブロードの管理下に置く。あそこは鉱山資源も豊富だし、ブロードにとっては有益だからね。けれど、少々ブロードに力がつきすぎる。というわけで、採れた鉱山資源は皇家へ献上し、もともと行っていたブロードの事業をあの地を開拓して行うことになったんだ。」


「なるほど。」


確かに、貴族社会でのパワーバランスは重要になってくる。

どこかの家が力をつけすぎるのは良くない。

周りの貴族へのプレッシャーや経済の回りかたもあるが、一番の問題は皇家より力をつけてしまうことだ。

ブロード家はいい手段をとったようだ。


「…了解したわ。じゃあロベルトは忙しくなるかしら?」


しばらく会えないのは寂しい。


「いや、今回の件に関しては父上に丸投げすることにした。解決したのはカナリアだし、あまりこの場を離れたくないからね。」


それはつまり、そういうことで。

私は急に顔が赤くなるのを感じた。

どうしよう。

なんだか最近こんなことばっかり。

この感情は何かしら…?


「ぅん……わ、私、眠いから寝る!」


赤くなった顔を隠すようにロベルトのベッドへと向かう。

本当なら多分、一緒に寝るのは良くないのだろうけれど、私が怖いから。

夜はなんだか、怖い。

人の温もりを知ってしまったから。

もう離れられない。


「ふふっ。そうだね。寝ようか。」


ロベルトが灯りを消す。

真っ暗になった部屋の唯一の灯りは月である。

そろそろとベッドへ向かう。

ボフンと音を立てて私は大きなベッドに飛び込んだ。

近くでくすくす笑う声がする。


「カナリア。」


隣でギシ、と布団が沈む。

私は布団をかぶって答えた。


「…なぁに。」


わかっている。

これはただの照れ隠し。

でも、今ロベルトの顔を見たらきっとまた熱くなる。


ふっと目の前に影ができる。

顔を上げると近くにロベルトの顔があった。

どうやらこちらを覗き込んでいるらしい。

あまりの近さに私は魚のように口をパクパクさせてしまう。


「愛してるよ。」


それをいうとロベルトは満足そうに笑い、影は無くなった。

隣で動く気配があったから、ロベルトも布団をかぶったのだろう。


「〜っ…」


もう!

私はごろごろ左に転がる。

そのままロベルトに衝突した。


「わ!?カナリア?」


ロベルトは困ったように声を上げる。

そんなロベルトを見上げて私は言った。

頬が熱いのはわかっていた。


「私も、誰よりも愛してる!」


それを最後に私は口を紡ぐ。

ちょっとした仕返しなのだ。


その数分後、ロベルトの温かな体温に安心して私は眠りへと落ちていった。


***


やっぱり君には敵わない。

寝る前に愛していると言ったら、なんとも可愛らしい仕返しで返ってきた。


「私も、誰よりも愛してる!」


それ以降カナリアは喋らなかったが、喋らなくてよかった。

カナリアは人の目を見て話す。

今の顔を見られたら流石にまずい。

きっと、真っ赤に染まっているはずだから。


「ふぅ…………」


息を吐く。

落ち着け。


腕の中で眠るカナリアを見る。

小さな身体は最も簡単にこの腕に収まり、小さな体温が伝わってくる。

僕よりも少し高いそれは眠るのに時間を要さない。

ゆっくりと肩が上下し、僅かに寝息も聞こえる。


愛しているよ。

この世で一番一番大切な君へ贈る言葉。


君が僕を愛してくれますように。

一人の人間としても。

一人の男としても。


君が振り向いてくれるまで、ずっと待っているから。

だって君は、僕が初めて愛した人。

初めて自分のものにしたいと思った人。


離さないよ。

離せないんだ。


「愛してるよ。世界で一番。」


ねえ、カナリア。

好きだよ。


それは、愛しい君へ贈る言葉。



星たちが見守る中、暫くして穏やかな寝息がもう一つ重なった。



いつも読んでくださってありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ