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カナリアさんの秘密のお部屋  作者: クロ
第四章 開拓
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最も憎いものは

ああ、私の子供たち。

なんで黒髪なんかに生まれたのかしら?

今までの男の中に、黒髪なんていなかったのに。

貴方たちは誰との子供なのかしら?


ああ、可愛い。



ああ、憎い。

なんで、私よりもあの子達が美しくなるの?

私が一番この場所で綺麗で、一番美しくなくてはいけないのに。

なんで黒髪で、あんなにも美しいの?


駄目よ。

私よりも美しくなるなんて許さない。

貴方たちの美しさが成熟するまでには、貴方たちを無くさないと。

どうすればいい?


ああ、あの子達に人を殺させよう。

血に塗れた人間を愛する人間がいるとは思えない。


だからね、殺してきなさい。


そう送り出して。

なんだか少し寒くて。


道端で座り込んでいたら、変な人間に会った。

黒いローブに、長い棒。

魔法使いとやらかしら。


「…ねえあんた。」


「はい?」


ふふっ。声からして男ね。


「取引しましょう?」


「…どういった?」


なるほど、話はわかるやつらしい。


「いいから、いらっしゃい。」


路地裏に連れ込む。

引いた手は男の手だ。

子供達はしばらく帰ってこない。

家に連れ込んでも大丈夫だろう。

もし見られても、別に困ったことはない。


「ねえ。一夜だけ相手をしてあげるから、私の願いを叶えてちょうだい。」


「…内容は。」


「…成長を、止めたいの。二人。そう言う魔法、あったりしない?」


子供達を殺す手もある。

でも…


「ありますよ。いいでしょう。丁度実験したかったところです。私しか使えない、貴重な魔法なのですから。」


それで、かけたい相手は?

そう聞かれる。


「黒髪の小さな子供。それだけでいいわ。」


「…了解した。」


魔法師が目を閉じる。

しばらくして魔法師は目を開け、完了したといった。


「ありがとう…」


手を握って、目を見て礼を言う。

初めて、心の底から感謝したかもしれない。


「…報酬がまだだったわね。私、これでも上手だって有名なんだから。」


男を押し倒す。

硬い床に男の体が押し付けられた。


「いささか夢を見るには場所が悪い。」


男がパチンと指を鳴らせば部屋に大きなベッドができた。

驚いてつい男を抑える力が弱まる。

その間に、私の立場は逆転していた。


「名を、聞いていなかったな。其方の名は。」


「わ、私?私に名前なんてないわ。貴方が決めてくれていいわよ。一夜だけの名前なのだから。」


「……ならば、ルージュはどうだ。」


「ルージュ……」


とても可愛い響き。

私の名前。


「…いいわ。私はルージュ。貴方の名前は?」


「私か?ふむ…では、アイゼと呼んでくれ。」


「わかったわ。アイゼ。」


「では、幻の世界へ。」


ゆっくりと口づけられる。

今までの男と違う。乱暴じゃない。


「ん………」


身を震わす快感に、私は身を委ねた。



***



なぜ、こんなに、優しいのかしら?


触れ方も、声も、体温も、優しい。


「アイゼ。」


「なんだ?」


乱れたローブを脱がせる。

白いシャツから覗く胸板は鍛えられていて、色白だった。

金色の瞳と、髪。


「きれい…」


そっと彼の頬に手を寄せる。

甘えたように頬を寄せる彼に胸が高まるのを感じた。


「貴方に、私の初めてをあげる。」


「冗談を言え。ルージュ、君は今までたくさんの男に抱かれてきただろう?」


「そうね。だって、そうじゃないと生きていけなかったから。でもね、私、そんな殿方には言っていない言葉があるのよ。だから、優しい貴方に初めてをあげる。」


「…?」


不思議そうにこちらを見つめるアイゼと額を合わせた。


「愛してる。」


「!」


子供にもいっていない愛の言葉。

私が初めて、私に許せた相手。

一夜だけだけれど。


「ふ。面白いことを言う。

夢にしては勿体無いな。君は。」


アイゼも同じなのかしら?

でも、これからも共にいることは取引に違反する。


「そうね。そんなに安い女じゃないもの、私。」


「そうか。ならばそんな君を満足させられるようなことをしなくてはな。」


腰に手がまわる。

大きな手は手入れがよく行き届いているからか、力仕事をしないからか、なだらかだった。

金色の瞳が妖しく光る。


気づけば、夜は明けていた。


///



『素敵な夢をありがとう。

またどこかで。      

 

            アイゼ』


目覚めた時にあったのは一枚の紙切れ。

床も元に戻っていた。

アイゼの姿はどこにもない。

香りも、温もりも、もうない。


「そうね。また会いましょう。」




ああ、憎い。

誰が?

さあ?


ああ。

この時が来たのだ。

死の時が。


まさか、自分がお腹を痛めて産んだ子に殺されるなんて。

でもそうね。

殺されるなら、子供か…アイゼね。

今までの男に殺されるのはごめんよ。


アイゼ、ごめんなさい。

私の愛した人。

約束は果たせそうにないわ。


ああ、憎い。

誰が?

私が。


体を売ることしかできなかった少女が憎い。

自らの子供に呪いをかけた女が憎い。

もっと早くにアイゼに会いたかった。

この泥まみれの世界で少しの希望が見えたかもしれないのに。

でももう遅い。

ああ、憎いわ。


世界が。

私が。


きっと私の知らない世界はそうではないのかもね。

アイゼはどこから来たのかしら?

出身の場所でも聞いておくんだった。


ああ。

視界が染まっていく。

何に?

血に。

赤色ね。


ルージュ。

それは口紅。


ほんと、いい名前をつけたわね。

一夜だけだといったけれど、私はルージュがいい。


ルージュ。

貴方にもう一度呼ばれたいわ。


私じゃだめかしら?

美しい、なんてもうどうでもいい。

ごめんなさい、子供たち。

私のせいよ。

ごめんなさい、アイゼ。

どうかゆる足てね。


こうして、一人の女の生涯は幕を閉じた。



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