『幸福』
朝、朝食の席につけばあの子達は既にその場所に控えていた。
「おはよう。」
「「おはようございます。」」
綺麗な礼だ。
きっと、ここまで来るまで練習したんだろう。
ああ、本当に、この子達が来てくれてよかった。
席に着く。
温かな朝食が運ばれてきた。
ふわふわのパンと、温かいスープ。
寝起きには丁度いい温かさで、料理人の気遣いが伺える。
改めて、あの子達を見てみた。
黒のスーツを着た、青年。
上にあげた髪は彼の繊細な容姿を際立たせる。
烏の濡れ羽を彷彿とさせる髪は、とても美しい。
黒の短いスーツの上を着て、踝ほどの長さのスカートを纏った、少女。
綺麗な黒髪は、私が昨日結った形で一つに纏めていた。
すっと通った鼻筋に、涼しげな印象を持たせる目元。
二人とも右目の下に黒子がある。
うん。
やっぱり、この子達にはあの名前がいい。
食後の紅茶を飲み、一息ついた後。
「…こちらへいらっしゃい。」
そっと手招きする。
子供達はゆっくり近づいて、私の前に膝をついた。
主人を見下してはいけない。
よく、身についている。
昨日、屋敷の執事さんが教えてくださったのかな。
「貴方たちの名前…アランディーノと、ヴァロアナ。…どうかしら?」
二人の顔をしっかり見て言う。
「アラン、ディーノ。」
「ヴァロアナ……」
二人は呆然とする。
その名前を胸に刻んでいるのだろうか。
少しの逡巡の後、何かを噛み締めたかのような顔をすると、二人は柔らかく笑った。
「ええ。我らが姫様。この身が朽ち果てようとも、地の果てまでお供いたします。」
アランが答える。
「わたくしたちの姫様。誠心誠意仕えさせていただきます。」
今度はロアナが答える。
「よろしくね。私たちの『幸福』。貴方たちの未来に幸在らんことを。」
二人の頭をそっと撫でた。
サラサラと流れる髪が朝日に照らされる。
黒曜石から一筋の水が流れた。
***
数えきれないほど、人を殺した。
手が血で見えなくなっても、何も感じなかった。
この黒髪は、不吉の象徴。
人を殺し、傷つけた。
決して許される行為ではない。
そんなこと、百も承知だ。
『不吉』に、『幸福』と、この方は仰った。
ならば、この人だけが、僕たちを『幸福』と呼んでくださる限り、僕たちは『幸福』。
そうでないと、姫様が仰ったのならば……………そう言うことだ。
姫様が仰ったことは、僕たちの芯となる。
僕の名は、アランディーノ。
姫様の、『幸福』
血に塗れた世界の光は姫様。
地の果てまでもお供いたします。
死ねと言われれば死に、生きろと言われれば生きる。
我らが姫様。
僕たちの、光。
///
兄さんが人を殺して。
私も人を殺して。
虚な目の中には地獄が見えた。
そんな場所から引っ張り出してくれた。
人を傷つけて、殺して。
人として許されないことをした。
だから、姫様に尽くす。
姫様に、命をかける。
これは私の自己満足。
だから、気づかないように。
姫様だけは、傷つけたくないから。
私たちを導いてくれた。
私たちを明るい場所に引っ張り出してくれた。
呪いも解いてくれて、寄り添ってくれて。
『不吉』の私たちに、優しさを教えてくれた。
世界は明るいものだと、そう教えてくれた。
私はヴァロアナ。
姫様の『幸福』
その名に恥じぬよう、生きていこう。
我らが姫様。
私たちの、光。
***
本当は#最も憎いものは の前の話です…
なぜか抜けていた…まじか…
すみません!




