過去は語る 2
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その時の記憶は曖昧である。
嘗て共に遊んでいた友たちに、妹が殺されそうになった。
死んでしまったと言っても過言ではないほどには。
ボロボロになった体は真っ赤に染まっていた。
口の端から溢れる赤は、よく見て来たものだった。
視界は、赤く染まった。
その先、自分が何をしたのかは憶えていない。
目を開ければ、自らが返り血で染まっていた。
周りに転がった何かもわからぬ肉の塊に対してはなんの感情も浮かばない。
きっと、人を殺めることに慣れてしまった。
なんの言葉も、感情も浮かばないから。
ならば、これを誰かのために使えないだろうか。
この美しい姫君を、守れる騎士に。
世界を見せてくれたこの方へ。
朽ち果てるはずだったこの命を、差し出そうか。
そうとなれば、僕の答えはひとつ。
「…僕は、貴女について行く。」
それが、僕の道。
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痛かった。
兄さんが、助けてくれた。
兄の手が、真っ赤に染まっていくことも、なんの感情も表さずに人を殺していくのも見ていた。
不思議と、そのことに嫌悪感は感じない。
寧ろ、鮮やかに舞う鮮血に感動してしまうほどには。
きっと、私たちは歪んでいる。
初めて人を殺めた時も、最初の方こそ虚ろな目が怖かったが、今はもう何も感じない。
ああ、死んだと。そう思うだけだ。
ならば、私たちを救ってくれたこのお姫様に。
醜い私の人生を。
道を選ばせてくれるこのお姫様に。
私の命を。
全て、この血一滴でさえも差し出そう。
「僕は、貴女についていく。」
兄は、そう答えた。
ああ、兄も同じなのだとそう思う。
「私は、貴女様のお側に、この命が尽き果てるまでお仕えいたします。」
これが、私の選んだ道。
後戻りはできない。
昔からそう。
人は、殺したら戻らない。
壊しても、元に戻らない。
だから、全てにおいて選択肢は一つ。
私が生き抜いてきた人生の中で、これほど重要な時間があっただろうか。
あったとしても、私は自分で選んでいない。
全てはあの母親の思うがまま。
でも、今は違う。
どうか、どうか。
少しでも、この綺麗なお姫様のために生きることができますように。
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兄妹は、私の元に来てくれた。
私は彼らに二つの選択肢を教えたけれど、本心では私のところに来て欲しかった。
彼らは透き通っていて綺麗だから。
彼らが成長していく姿を見てみたいと思った。
だから、ここに連れてきた。
でも、この子達の未来を決めるのは私じゃない。
自分たちで切り拓いた道だからこそ、人生というものには面白味がある。
自分たちで掴んだ選択がこの先の未来を形作っていく。
「…ありがとう。
じゃあ、私たちは色々と準備してくるから、ゆっくり休んで。」
これから従者として生きる上での立ち振る舞いや役割を教えられる。
そのために教師を選んだり、契約書を書いたり、服を調達したりと達成すべきことは山ほどある。
遠くに見えた青空は、どこまでも澄み切っていた。




