解呪 1
小さな子は高い天井を見上げてキョロキョロしている。
ここにあるものは彼らにとって初めて見るものであり、孵化した小鳥のようでもあった。
「先にお風呂に入りましょう。」
二人と手を繋いで、ゆっくりと歩く。
伸び切った髪がゆらゆらゆれて、小さな手がぎゅっと握られる。
時間をかけてたどり着いたお風呂場にロベルトと、私、小さな子が入る。
そのほかの人間はロベルトに入室を禁止された。
その理由はもう時期わかる。
浴室に入ると、蒸し暑い空気が流れてくる。
広い浴槽には温かな湯が張られ、黙々と湯気を立たせていた。
そばに置いてあった仕切りをとって、浴室を二つに分ける。
ロベルトと、男の子。
私と、女の子。
「今から、体を綺麗にしましょう。そのままは嫌よね。
これは、温かいお水よ。少しずつ、慣らしていきましょう。服、自分で脱げるかしら?」
こく、と頷いた女の子は服を脱ぎ始める。
その下にあったのは、たくさんの大きな痣や、小さな傷だった。
思わず息を呑む。
一体、どんな扱いを受ければこんなことになるのか。
その傷からは状況が容易く想像できた。
それでもこの子達はそれに耐え続け、生き延びた。
それは奇跡とも言える。
「じゃあ、早速体を洗いましょう!」
石鹸を片手に、私は泡で彼女を包んだ。
***
流れた水は茶色く、泥水かと錯覚するほどである。
ごわごわに固まった髪を根気強く洗い、流していく。
石鹸で洗った後に、予備としてあの森の家から持ってきていたリンスを髪に通す。
それを何度か繰り返すうちに髪に指が通るようになった。
漆黒の髪はそのおかげか艶めき、烏の濡れ羽色のようだった。
髪をどかしたことで見えるようになった黒曜石の瞳は透き通っていて、煌めいていた。
体はよく泡立てた泡で洗い、全身をピカピカになるまで洗った。
桶に溜めた湯船に浸からせ、体をほぐした後に、髪を絞って小さな体を拭く。
ポンポンと優しく叩くように拭けば、傷が痛むこともないだろう。
おおよそ髪の水気がなくなった頃に全身をタオルで包み、体が冷えることのないようにしてから髪を乾かす。
真っ直ぐになった髪はとても触り心地がいい。
伸びすぎた髪は、目に入るといけないので前髪を少し整えた。
あとは、傷んだ毛先を切ってオイルを塗る。
髪を結んであげようと思って、悩んだ結果一つにまとめることにした。
そうすれば、彼女の整った横顔が映えると思ったのだ。
「よし!完璧ね!」
黒髪に、白いリボン。
それはこの世で最も単純な明暗の対比でありながらも、違和感のない組み合わせだ。
体に巻かれたタオルをとり、私のドレスを空間魔法から出して、彼女に着せる。
「ロベルト。終わったよ。そっちは大丈夫?」
仕切りから手を振る。
その手に大きな手が重なった。
びっくりして顔を覗かせると、目の前にロベルトがいた。
鼻と鼻がくっつきそうな距離に驚いたけれど、ロベルトの目を見たらそんな驚きも消えてしまった。
「うん。こっちも、大丈夫。」
ふわりと笑った彼の笑顔に思わず目を見張った。
これまでも笑った姿は見たことはあったけれど、はにかんだ顔は初めて見た。
繋いだ手が熱くなる。
どくどくと脈打っているのは、どちらなのか。
カナリアの視界が煌めいた。
「さて、呪い、解こうか。」
ロベルトの言葉で私は現実に引き戻され、ふんわりとした思考が飛散する。
ロベルトも、呪いの正体に気づいたのだろう。
恐らく、男の子の方もロベルトの服を着ているはずだ。
「ええ。」
二人で詠唱を唱える。
『我が名において命ずる。光の女神よ、呪縛を解き払い、彼の者に自由を与えたまえ。』
浴室が、白い光に包まれた。




