白馬に乗ったお姫様 2
「これは、呪い…?」
確かに彼らの周りには黒い空気が渦巻いている。
それは背後に取り憑く霊のようであり、重い空気が呼吸するのを躊躇わせた。
『鑑定』
彼らに手をかざし、呪いを解析する。
呪いの名はー
「…」
私は何も言わず、小さな子供を馬に乗せ、ロベルトの宮殿へと急いだ。
***
「カナリアっ!」
玄関の前に着く頃には、ベランダにロベルトの姿があった。
白のシャツと黒いズボンというラフな格好をしているからか、いつもとはまた違った雰囲気だ。
「ロベルトー!ただいまっ!」
子供達を両手に抱きしめて私は精一杯帰りを伝える。
急に出した大きな声に子供達はびっくりしていたけれど、私が呼んだ名前の持ち主であろうロベルトを見た。
「おなじ、いろ。」
女の子の方が呟く。
それは今にも消えそうな声だったけれど、私にはしっかり聞こえた。
女の子は自分の髪を引っ張って遠くにいるロベルトの髪色と比べようとする。
けれど、うまく合わせられなかったようで、諦めたように男の方に寄りかかった。
そろそろ、太陽はその全貌を現す。
馬の足が地面いついた。
「ようこそ。私の愛しい人のお家へ。」
ロベルトが玄関から出てくる。
子供達は、初めてその足で地面に立った。
どうか、この子達の未来が輝くものでありますように。
***
朝目を覚ますと、カナリアの気配がない。
まだ日は少し出ているぐらいで、外は薄暗い。
慌てて周りを見渡すと、サイドテーブルに一枚の紙が置かれていた。
それを見れば、美しい筆跡で、
『少し出てくるわ。
朝日が昇る頃には帰って来れると思うから、少し待っていてね。』
と書いてあった。
滑らかな文字はカナリアのそれで、ホッとしたけれど、心配が募る。
魔力の残滓を辿れば、カナリアが最後にいたのはこの部屋で間違いない。
ならば、きっと南の方に向かったはずだ。
僕は朝日が昇るまでベランダを眺めていた。
時々レオがこちらの様子を伺いにくるが、僕はその場から動かない。
朝の報告も自分の部屋で聞いた。
厨房から朝食の準備をする音と、いい香りが漂ってきた頃に、遠くに白馬が見えた。
その白馬に乗った小さな人影。
遠くてもわかる。
あれは、カナリアだ。
だんだんと白馬が近づいてくる。
「カナリアっ!」
思わず出したその声は、生きてきた中で一番大きな声だった気がする。
君は本当に美しい。
だからこそ、簡単に空へと飛んでいってしまいそうで。
それが儚くも美しく、寂しい。
君が僕の元へ一直線に帰ってきてくれることが嬉しい。
「ロベルトー!ただいまっ」
ひらひらと手を振るカナリアに手を振りかえす。
どうやら白馬に乗っているのはカナリアだけではないらしい。
小さな子供。
しかも、漆黒の髪を持った珍しい二人の子供。
彼らを見てすぐにわかった。
呪いがかけられていると。
事情はカナリアから聞こう。
カナリアが白馬を地上に降ろさせる頃合いで僕は玄関に向かう。
ドアを開ければ、小さな子供二人と、カナリアがいた。
「ようこそ。私の愛しい人のお家へ。」
ようやく姿を見せた太陽がカナリアの背後から顔を覗かせる。
朝の光独特の透明さがカナリアたちを照らす。
子供達の背中をそっと押して、カナリアはこちらに歩いてきた。
よてよてと歩く姿はか弱さを強調させ、今にも倒れてしまいそうな子供は、拙くも自分の足で歩いていた。
子供の一人を受け取る。
カナリアをエスコートしながら子供を玄関に迎え入れる。
嬉しそうに笑うカナリアはどこまでも美しく、綺麗だ。
白馬に乗ったお姫様。
君が笑いかけてくれることが。
君が笑っていられることが。
どれだけ幸せで喜び溢れることなのか。
君が教えてくれた。
だから、君がこの二人を従者に選ぶということは、この子達もまた、綺麗なのだろう。
そのことを祝福するように、登り切った太陽が屋敷の中を照らした。




