表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナリアさんの秘密のお部屋  作者: クロ
閑話 その後の罪人
46/65

後始末 3

あーあ。

帰っちゃったよ。

先ほどまでいた友人を懐かしく思いながら、アルは着替える。

今日は、血が滴る日になりそうだ。

せっかくレイが送ってくれたゴミなので、普段は部下にやらせるところを今回は自分で手を下すことにした。


アルは、修道院の中でも『鮮血の死神』と恐れられる、国内切手の拷問員として有名だ。

彼にかかった罪人は、正気ではいられないと言われている。

実際、正気を保ったまま罪を償う者はいなかった。

精神を病むか、そのまま死んでしまうかなのだ。


「さあ、楽しいお遊びの時間だ。」


薄い緑色の瞳が妖しく光った。


***


「いやっ…やめてっ……」


ぷつりと、少女の白い腕に針が刺され、ゆっくりと中の液体が入れられた。

針が抜かれると、アルは包帯を少女の腕に巻く。


「はいはい。じっとしててねぇ。」


今からアルが行うことは単純なことだ。


少女の目を黒い布で多い、手と足を縛る。

決してやましいことをしようとしているわけではない。

よく勘違いされるが、これは人の脳を混乱させる尋問方法だ。


「ジェシカ。可愛い名前だねぇ。ジェシーって呼ぶことにしよう。」


「え…はい。」


急に視界を遮られて焦っていた彼女は、急に名前を褒められたことに嬉しくなる。

声からして男性であり、ジェシカは男性に名前を褒められて、初めてのことに胸が高鳴った。


「じゃあジェシー。今から君の手首を切る。」


「え!?」


そして、ナイフらしき物を手首に当てられる。

金属特有の冷たさが彼女の不安を煽った。


「ああ。安心して。さっき腕に刺した時に、麻酔薬を入れているから、痛くはないよ。」


「そう、なの…?」


ジェシカはそれにホッとする。

痛くないなら、別に。


アルはそう思うことをわかっている。


「切るよ。」


「は、い。」


痛みはないとわかっていても、切られると言う行為自体が恐ろしい。

震える声で返事をした彼女は、すっと、冷たい感覚が横に移動するのがわかった。


「っ!」


痛くないとわかっていても、体が強張る。

そのことをアルは知っている。


アルは、装置を発動させた。


***


ぽた、ぽた、ぽた、ぽた


血が滴り落ちる音がする。

それは石でできた牢屋によく反響して、ジェシカは思わず身を震わせた。


「ジェシー。今から医療の話をしよう。」


「はい。」


優しい声に耳を傾ける。

その男性は、医療について語った。


「いいかい、ジェシー。人は、血液が必要不可欠だ。

その血液が多く失われると、人は死ぬ。」


「はい。」


「君の手首から血液が失われ続けたら、君はどうなると思う?」


「え。」


この人はなんの話をしているのだろう?

つまり、この人が話した内容からして。


「私、死ぬの…?」


「そうだね。」


あっさりと返された肯定の言葉に、ジェシカは焦る。


「いや!なんで…!いや、死にたくないっ!」


ジェシカは目の前にいるであろう男性に縋りつこうとするものの、そこには誰もいない。


「なんで、こんなことにっ…!」


受け入れ難い事実に、ジェシカは争い続けた。


***


あーあ。

つまんない。


泣き喚くジェシカを見ながらアルはあくびをする。

あと30分はこうしていよう。


実際、針を入れたのは免疫を強くする薬。

手首は切っていない。

出したのはナイフだが、おもちゃのナイフであり、皮膚が切れることなどない。

そして、血液を思わせる音は、ただ水を落としているだけ。

アルが自分で作った装置であり、一定の魔力を入れると水が落ちる。

それを人は自分の血液だと認識し、失血死すると思う。

そして、実際血は流れていないのに、死ぬのだ。


(ほんと、人間って面白いよねぇ)


アルはしばらく集中して少女を眺めていた。

だんだんと少女は喋らなくなり、静かに泣き始めた。

アルは、「魔眼」を発動させる。


(もうそろそろかなぁ。)


心拍が弱まってきている。

アルの「魔眼」は、人の心拍数や呼吸、体温、健康状態などを確かめることのできる特別な目だ。


「ジェシー。」


アルは無表情でジェシカに近づく。


「お兄さん…?」


ノロノロと顔をあげた彼女は先ほどよりも少しやつれて見えた。


「ジェシー。いいことを教えてあげる。」


「え…?」


しゅる、と黒い布を彼女の目から離す。

急に明るくなった視界にぎゅっと目を瞑りながら、ジェシカは自らの手首を見ようとする。

目が慣れて、彼女のピンク色の瞳が見開かれた。


「え…?」


そう。

手首など切られていなかった。

血など、出ていなかった。


「君はね、思い込みでそうなっていただけ。実際に僕は君の手首なんて切っていないし。」


アルはナイフなど持っていない。

ハサミを手首に当て、刃を閉じた状態で横に引いただけ。

アルが麻酔と言って打ったものは、抗体。

人体に害のないものである。


ジェシカは己の手首を切ったと思い込んでいた男性を見やる。

薄紫の髪に、薄い緑色の瞳。

優しく細められた瞳には、なんの感情も写っていなかった。


「なんで、こんな。」


「ん?」


ジェシカの至って普通な質問に、彼は答えた。


「だって、面白いじゃないか。人は思い込み一つで死ねるんだ。どんなに優しい世界だと思う?

君はさ、優しい世界だけでしか生きた事がないんだろうから、ちょっと実験。

ただ、それだけの理由さ。」


じゃあ、また明日ね、愛しいジェシー。


そう言って、彼は牢屋を後にした。


バタンと、鉄格子が閉められる。


「あ……あぁぁあ!」


ジェシカの叫びが、牢にこだました。


***


一部始終を見ていたアルの部下は、その尋問(拷問)の仕方に驚いていた。

彼はまだきたばかりで、アーノルドのことをあまり知らない。

鞭か、そういった尋問(拷問)道具を使うのかと思っていたが、全くそうではなかった。

少女を傷つけることなく、彼は少女を殺しかけた。


「ふふふ。いいね、あれは僕の愛しいジェシー(おもちゃ)だ。」


彼は笑っているが、目は笑っていない。

あれは、愛しい実験体を見る目だ。


そうだ。彼は、俺がここにきた時、こういった。


『ここにきた人はね、人としてやっちゃいけないことをした。彼らに人権など存在しない。


ここにきたモノは、"ゴミ"だと思って?』


彼は、彼のいう"ゴミ"で遊んでいる。

世の中にいらないものを祐逸構っているのだ。

それは異端とも言えるし、優しいとも言える。


「さあ、明日はどうやって遊ぼうか?」


そう言った彼は、心底楽しそうであり、美しい。

全く、うちの修道院長は困ったお人である。



アーノルドが行った拷問……尋問方法は、ノーシーボ効果と言います。

気になる方はぜひ調べてみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ