後始末 2
ああ、今日は四人送られてくるんだったか。
西の修道院で働いているアーノルドは血に塗れた床を掃除しながら思う。
ここは西の修道院。
東西南北に分かれる領地の修道院の中で、もはや拷問室と言われる悪い意味で有名な修道院である。
アーノルドはここで働いており、主に尋問が得意な人間であった。
扉がノックされる。
「帝国の白鳥の色は。」
そう問いかけると、小さく返事が返ってくる。
「永遠に続く金色である。」
「ようこそ、西の修道院へ。歓迎するよぉ。」
迎え入れるとそこにはややげっそりとした友人がいた。
おや。お疲れのようだ。
「やあやあ。久しぶりだねぇ。一年と半年ぶりかなぁ?」
「あ?ああ…お前か。もうそんなになるのか。月日の流れは早いな。」
そう。
今回西の修道院にきた騎士はかつて一緒に学園を卒業した友人、レイオネルだった。
「で、レイ。今回のゴミはぁ?」
「ああ。こいつらだ。」
レイは一度姿を消すと、すぐ戻ってきた。
ガラガラと荷台を引いてこちらにやってくる。
荷台に乗せられた箱を開けると、そこには啜り泣く淡いピンク色の髪をした少女がいた。
「…何こいつぅ。」
なんだか気味悪い。
ぐちょぐちょしていて、核が汚い。
こう言うのは、ここまできても自分が置かれている立場を理解できていない、優しい世界で生きていた愚か者だ。
「これが書類だ。」
ピラ、と手渡された紙を手にとる。
そこには吐き気がするほどの内容がびっしり詰められていた。
どうやら、とんだ勘違い野郎らしい。
「ふうん。まあ、いいや。僕にとっては全員等しくゴミだしぃ。
それよりも、久しぶりだし、一杯どう?」
「ああ。もらおう。」
こうして怯える少女を引き摺りつつ、僕はかつての友と少しの間お茶することになった。
***
「散らかっててごめんねぇ。」
「いつものことだ。気にするな。もはや懐かしいな。」
「懐かしいって言う単語が出てくる時点でおかしいけどねぇ。」
さっきのゴミを一回ゴミ箱に捨ててきて、僕はレイを部屋に通す。
薬草や怪しげな薬がたくさん置いてあるけれど、全て尋問で必要なものなので皇家に使用が許可されている。
ここは僕が管理しているので常日頃から散らかっている。
それに、レイとは部屋が一緒だったので、彼にとっては見慣れた光景だろう。
職場のやつは嫌な顔をするが、それもそれで面白いので放っている。
久しぶりのやりとりに笑いながら茶葉をとり、湯を沸かす。
二人分のカップに茶葉を入れ、湯を入れる。
そうすれば、美味しい紅茶の出来上がりだ。
「はい、どうぞぉ。」
「いただこう。」
彼がカップに口をつける。
その途端。
「うおえっ!?ゲホっ…ゲホっ…」
僕は笑い転げた。
どうやらすっかり忘れていたらしい。
しばらくむせた後、こちらを向いて彼は言った。
「…そいや、お前壊滅的に茶が入れられない人間だったな。」
「そうだよぉ。忘れたのぉ?」
ニコニコと頬杖をつきながらレイに尋ねる。
「ああ。まじで、ほんとに、変わってないな。
騎士の方ではちゃんとしたお茶が出てくるから、油断してたよ。」
「ねぇーちゃんとしたお茶って何ぃ?僕のはちゃんとしてないってことぉ?」
「そう言うことだ。」
「ひどぉい。」
とか言いながらも、実際は全然傷ついていない。
彼もそれを承知の上で言っているのだろう。
久しぶりの友達とのやりとりは楽しい。
不味い不味いと文句を言いながらもチビチビとお茶を飲む彼は昔と変わらず真面目だ。
「で、今回のゴミはなんなの?」
紅茶を置いて彼に尋ねる。
今も昔も友の彼は、僕の雰囲気が変わったことに気づいた。
職場の奴らは気づかないのに、ほんと嫌味なことだよね。
「それがな………
***
ジェシカを送り届けて早々に退散するつもりだったのだが、なんと友に会った。
ややのんびりとした口調に、薄紫の髪と薄い緑の瞳。
黒い服を纏っているせいか外見こそ変わったものの、纏う雰囲気は変わっていなかった。
そして、なんだかんだ一緒に茶を飲むことになり、奴のクソ不味い茶を飲むことになった。
学園の時もそうだった。
こいつの入れる茶は、毒物でも入っているのかと思うぐらい不味い。
どうやったらこうなるのか、逆に気になるぐらいには。
「で、今回のゴミはなんなの?」
間延びしていない口調になったと言うことは、真剣なのだろう。
それに、アルの纏う雰囲気が変わった。
それをすぐに察した俺は、アルに事情を説明した。
一通り話終わった俺は、毒物に口をつける。
今はその味でさえ懐かしい。
「ふうん。くだらない理由だね。」
全てを聞いて出た感想はそれだった。
「ふうんって。なんかないのかよ。」
「でも、本当に「ふうん」、じゃない?くだらないったらありゃしない。」
アルは俺が話している最中に持ってきたビスケットを齧りながら話す。
バキ、と真っ二つに割れたビスケットはこれから少女が行われそうなことだ。
「そうなんだよなぁ。」
「…ちなみにさ、さっきのゴミの罪を暴いたのは誰なの?そっちの方が気になるなぁ。」
残ったビスケットを口に放り込んだアルはいかにも興味津々、と言った様子で聞いてくる。
これには俺も興奮してしまった。
「そう!それなんだよ!」
俺は、第二皇女が見つかったこと、
その第二皇女がまじで美しかったこと、
そしてその裁き方をこの目で見た通りに話してみせた。
そうするとアルは、どんどん目を輝かせ、二人で机に乗り出した状態で話していた。
「何それ!何その皇女様!いいなぁ、僕も一回会ってみたい!ずるいよ、レイ。」
特にアルはその裁き方が気に入ったらしく、頬をピンクに染めている。
「はっはっは。いいだろう!お前は貧弱だからな!まあ、絶対ないと思うが、第二皇女様がここにきてくれたら、ワンチャン会えるんじゃないか?」
「ないない。皇女様がこんなところに来たら、ドレスが汚れちゃうよ。」
アルは笑っているが、その目には期待が込められていた。
本当、変わんないな。
「それよりもっと聞かせてよ!」
こうして俺は、アルと一緒に第二皇女様について熱論し、挙げ句の果てにはアルの家に泊まることになった。
そして仕事先に戻ったのは、送り届けてから一夜経った頃だった。
上司からはこっぴどく叱られたが、事情を説明したら上司とも熱論することになり、俺は地味に寝不足になりながらも今日も仕事をこなすのだった。
第二皇女様が西の修道院を訪れることになるのを知ったのは、それからすぐのことだった。
ジェシカ以外の罪人さんたちは、アルとレイがカナリアについて熱弁している間に他の職員が牢屋にぶち込んでます。




