この先の未来で
月明かりに照らされた馬が足を進め、車体はゆっくりと前進する。
煌びやかな王宮が遠ざかっていく。
私は隣の温かさに身を預けていた。
あのあと、鐘が鳴って舞踏会は終了した。
ぞろぞろと参加者たちが去って行き、私たちはお父様と少し言葉を交わして帰ることにした。
ロベルトが用意してくれていた馬車に乗って、ロベルトの宮殿へと帰る。
それが私の日常の中の幸せ。
馬車の中に落ちる沈黙は夜の静けさもあってか、いつもよりも静かに感じるが、嫌ではない。
それは、貴方を愛しているから?
それとも、ただ私が沈黙が嫌いじゃないだけ?
わからないけれど、ロベルトと過ごす時間はいつも優しい。
大きな温かい手に包まれているようで、幸せな気持ちになる。
しばらくして私はその温かさの中で意識を手放した。
***
体重が肩に預けられる。
それに気づいて隣を見れば、カナリアが眠っていた。
初めての場所で、きっと初めてあんなに人に囲まれたのだ。
疲れてしまったのだろう。
肩を寄せてカナリアが首を痛めないようにしても、彼女はまつ毛一本でさえ動かさない。
深い眠りに落ちてしまったらしい。
窓からさす月明かりがカナリアの繊細な容姿を映し出す。
それは精密に作られて人形のようでありながらも、血が通っている。
その証拠に、君は温かい。
今回の件で一つの家が潰れる。
カナリアには伝えていないが、あの家は領民に多大なる税をかけ、長きにわたって苦しんできた。
帝国がこれに気づくことができなかったのは例の男爵家の隠蔽が上手かったこと、そして納税の割合を報告すべき宮廷の人間が仕事を怠っていたことだった。
結論から言えば、この一件で潰れるのは一つの家と、幾人かの未来だ。
それを言ったら君は悲しむだろうか。
けれど、伝えなければ君はもっと悲しむだろう。
君が目を開けたら、その時に伝えよう。
そんなことを考えている間に、宮殿へとついた。
玄関ではレオが待っている。
「おかえりなさいませ、我が君……」
カナリアを抱えて外に出る。
大事な僕の宝物。
この先の未来も、君の隣にいることができますように。
「ただいま。カナリアを運ぶから、報告は後で聞くよ。」
レオに頼んでいた案件はそろそろ片付く頃だろう。
まだまだ日々は続く。
君と歩むであろう明るい未来に想いを馳せながら、僕はカナリアの部屋へと向かった。
「そんな顔を、するんだね。ロベルト。」
その背後で、レオがポツリと呟いた。
過去と贖罪 (完)




