とある書物より
アーレンス289年、春。
行方不明であった第二皇女が見つかった。
名を、"カナリア・リベ・アーレンス"。
銀髪で、左右で違う色の瞳を持つ当時19歳の皇女。
彼女の容姿は美しく、見るものはその美しさに魅了されたという。
そして、彼女の側に居続けた人物は、四代公爵のブロード家当主、ロベルト・ブロードであった。
彼は第二皇女ととある契約を交わした第二皇女の"愛しき人"である。
そして彼は、第二皇女を「私の美しい鳥」と呼んでいた。
これは社交の場でしか言わぬ名だったが、第二皇女は大層気に入られていたという。
ブロード家の当主はその理由を明確にはしなかったが、第二皇女はこう語った。
「わたくしはね、彼の方の美しき鳥なのです。そして彼の方は、わたくしの方翼なのです。」
と。
その意味が解明されることはなかったという。
彼らはその意味を墓場まで持っていってしまったので、今現在でも、彼らの真意が明らかになっていない。
ある学者は、「二人は神の生まれ変わりだった。」「第二皇女は誠なる鳥だった。」と解いていたそうだ。
第二皇女が成した中でも一番有名なのは、彼女が皇女だと判明した時の事件だ。
後のブロード家の書類から、あれは計画された事柄だと判明したのだが、その場の貴族達はまんまと騙され、皇女に欺かれたという。
そして、第二皇女が明かしたことは、とある一家の罪だという。
その家の次男は妹を殺そうとし、父は息子たちを道具だと思い、父と再婚し生まれた妹は違和感を無視し、
長男と次男からした義母は旦那の前妻が産んだ子を疎み続けた。
第二皇女がその場で行ったことは、罪だと思う人間をその場にいた貴族たちに示してもらうという、至って単純明確であることだった。
その場にいる65名の貴族、四代目の皇帝、カイン皇帝陛下であった。
その場にいる貴族たちが罪人を決めるということは、その場にいる貴族たちの教育方針や人格がわかるということであり、それは皇帝陛下が信頼を置く人物として選ぶ際に参考になるということだ。
それを察した貴族は聡く、多くが上位貴族であり、察することのできなかった貴族は多くが下位貴族だったそうだ。
第二皇女はこれを見越しており、皇帝もそれを是とした。
これが貴族社会を軽く揺るがせることになるのはまた別の話である。
そして、その一家は裁きを受け、一件は落着したという。
これが、第二皇女登場の話である。
第二章 黒鳥
第一章で話したとおり、カナリア皇女が見つかり、帝国は大騒ぎとなった。
周辺の国々もざわつき、「カナリア」という人物を中心に、大きな波紋が起こった。
それは吉祥か、凶事かはわからない。
ただわかったことは、その鳥が及ぼす影響は大きいということだけだった。
また、皇女はとあることを成し遂げ、アーレンス帝国は様々な意味で大きく前進することとなる。
それは他の国々との差を広げ、アーレンスの統治下に置かれる国ができる理由となった。
第二皇女は皇女として身を置く際、二人の従者を連れていたそうだ。
その二人の色は当時は珍しく、簡単には受け入れない貴族が多かったそうだ。
しかし、従者となった二人は優秀で、皇女に忠誠を誓い、従順な僕であり続けたという。
彼らは『皇女の黒鳥』と呼ばれ、最も名誉のある立場に就くことになった。
黒鳥とは、その名の通り黒い鳥のことである。
意味は、「希少性」「独自性」「未開拓の可能性」「逆転の象徴」であり、第二皇女が直々につけた名である。
彼らがどんなことをしたのか、どんなことができたのか、どこの出身で、どんな容姿をしていたかは明らかとなっておらず、どんな書物にもどんな記録にも残されていない。
彼らが存在したという証拠は第二皇女の存在であり、その皇女はもういない。
彼らのことを知る術は、もうこの世には存在していないと言える。
祐逸わかっていることは、彼らが学院に通っていたことで、そこで類い稀なる功績を残したことである。
魔法、武術、座学、全てに優れている彼らは完璧だと、当時の学友たちは語っていたそうだ。
しかし、皇女がお隠れになってから彼らの足取りは掴めていない。
どこかで静かに過ごしていたのか、皇家の影として動いていたのか、それを知るものはいない。
これは、新たな幕開けの序章である。
発行日:アーレンス497年 4月22日
『第二皇女 カナリア・リベ・アーレンス』より抜粋
歴史上、ロベルトはすでに当主となっています。




