断罪の時 4
結界を解く。
会場の音が戻ってきて、耳障りだ。
騎士たちが四人の人物を引っ張ってくる。
彼らは何が起こっているのか理解できていないようで、抵抗もなしに引きずられてきた。
「な、にが起こって……?」
いまだに自分が置かれている状況が理解できないらしい。
会場の穴に人の視線が集まる。
「さあ皆様、舞台は終盤に突入致します。」
くるりと振り返り、会場の人間にそう呼びかける。
さあ、そろそろ驚きの海から帰ってきてもらう。
「ここで皆様にお願いがあるのです。今から行われる舞台の審査員になって頂きたいのです。」
舞台の審査員は、有罪か無罪かを決めてもらう。
その判断をもとに、陛下が裁きを下す。
「皆様にはこれより、この舞台の罪人を決めていただきます。
皆様は誰が本物の悪だと思われますか?
無論、何の情報もなく判断しろとは申し上げませんわ。皆様には正しい情報をお渡しした上で、判断していただきます。
では、引き続き舞台をお楽しみくだしませ。」
情報は、先ほどフレックが語った内容だ。
それを録音していたロベルトが全て紙に刷り、風魔法で会場全員に配る。
人々は困惑した表情で紙を手に取り、目を通していく。
眉を顰めるもの、無表情なもの、怒りを露わにするもの。
人それぞれの感情が混ざり合い、舞台を支配する。
人々は今、物事を表面上で理解している。
現時点で悪いのは誰だろうか。
フレックだろうか。
「さあ、そこに座り込んでいるフレックのご家族は貴方たちかしら。」
「い、いかにも。私はフレックの父である。な、何か、用か。」
揺れる視線を下から受ける。
家族全員が私に目を向けた。
「では、貴方たち四人に問うわ。愛とは何かしら?」
観客も、演者も、目を剥く。
愛。
それは抽象的であり、言葉では表せない。
正しい答えなど存在しない。
愛の形は人それぞれ。
彼らはどんな愛の形を持ち合わせているのだろうか。
「あ、愛とは………人を思うことだ。」
「そう。では、お父君、貴方はフレックにどんな思いを抱いていたのかしら?」
彼に与えられるはずだった愛について知りたい。
与えられていたら、彼はどんな風になったのか興味があった。
そんな私とは正反対に、お父君は意味がわからないとでもいう顔をする。
「フレック…?あれは、別に…何も。」
そうか、そもそも彼に与えられるはずの愛は存在していなかった。
彼らはフレックに対する愛がなかった。
「父上…?」
フレックが呆然と呟く。
先ほどよりも深い絶望が、彼を埋め尽くしていた。
「当然だろう。あれは次男だ。将来爵位を継ぐこともなければ、子を成す必要もない。我が家にとっては要らぬ存在だ。」
ああ、嫌だ。
我が子を駒とでも思っているのだろうか、
それともただ不器用なのか。
それを確かめるためにはー
「そう。ならば、テオバルトはどうなのかしら?」
「あれは、次期当主だ。優秀でいなければならない。それだけだ。」
「父上?」
今度はテオバルトが愕然とする。
フレックを気にしていた彼も、所詮父の駒だった。
「なぜです?私はてっきり、私のためを思って…厳しくしてくれたのでは。」
彼の厳しいの基準がわからないが、どういう意味だろうか。
「そんなわけがあるか。お前は男爵家の存続のために必要だっただけだ。」
バッサリと、なんの悪気もなく切り捨てる父に、息子二人は愕然としている。
「ちなみに聞くのだけれど、テオバルトと言ったかしら。"厳しい"と言っていた教育は、どんなものだったの?」
父を見つめ顔を真っ青にする彼に問いかける。
数秒の遅れのうち、彼はようやく反応した。
「は、はい。その…魔獣の住む森に寝泊まりしたりだとか…一週間家庭教師と徹夜で勉強だとか…そういうものです。」
なるほど。
それはもはや教育とは言えない。
ー虐待だ。
「それで、ジェシカ嬢は何を?」
母に抱きしめられ共に震える茶色の髪にピンクがかった瞳の少女は、震えながら答えた。
まるで小さな弱い動物のよう。
「わ、私は、刺繍をしたり、お母様とお茶をしたり…していましたっ。」
「貴方は兄たちのことを知っていて?」
彼女はやはり、震えながら答える。
「知りませんでしたっ。でも、兄たちは優秀でっ…」
これは、誰が悪いのだろう。
人を殺めようとしたフレック?
それとも、家の存続のため子供を駒として扱った父親?
それか、兄たちを見ようともせず、フレックの殺害未遂動機である愛されて育ったジェシカ?
義理の息子を無視した母親?
「さあ皆様、演者の役目は終了いたしました。
誰が悪でしょう?
どうぞ、皆様の意見をお聞かせくださいませ。」
観客たちが目を合わせる。
どうやら、答えは決まっているようだ。
「ではここで、彼に紙を配っていただきます。
父親が悪だと思いましたら青色の紙を。
母親が悪だと思いましたら赤色の紙を。
フレックが悪だと思いましたら緑色の紙を。
ジェシカが悪だと思いましたら桃色の紙を。
テオバルトが悪だと思いましたら、黄色の紙をあげてくださいませ。
よろしいでしょうか?
では。
紙をあげてくださいませ。」
一番多く上がった紙の色はー
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