断罪の時 2
曲が終わる。
シャンデリアの煌めきに包まれ、私たちは体を離した。
一歩引き、礼を取る。
そして、来た時と同じようにエスコートしてもらって、食事の場へと赴く。
このベールがあっては食事を取ることは不可能なので、飲み物だけで雰囲気を味わう。
ロベルトがそっとグラスを持たせてくれた。
私に合わせてくれているのか、ロベルトも飲み物を取ったようで、隣から食事の香りはしない。
「ロベルト様。これは、なんでしょう?ごめんなさい、わからないのです。」
生憎にも、私に渡された飲み物はわからない。
ワインか、果実水か。
「ああ、申し訳ありません。それは、葡萄の果実水ですよ。」
優しい声。
そうか、葡萄。
美味しそう。
「ふふ、ありがとうございます。」
ベールの下にグラスを持ってくる。
確かに、透明なグラスには、葡萄色の液体が入っていた。
これなら、いける。
手のひらに氷を作る。
パキ、と音が鳴って氷が出現する。
そのまま果実水に落とした。
ロベルトの腕を引っ張る。
それに気づいたロベルトが体を軽く掲げる。
ロベルトの耳元に手を寄せ、囁いた。
「…準備、できた。」
ロベルトはそれを聞くと、ローブの中に手を入れ、私の首元に触れる。
こうすれば、髪が絡まってしまったから取って欲しいとでもお願いしているようである。
「はい。大丈夫?」
「ええ、ありがとう。」
ー了解。こちらも問題ない。
ロベルトの許可も降りた。
断罪の時は来た。
***
人に囲まれる。
話すのは基本ロベルトだし、私は隣で静かに立っているだけでいい。
姿勢を良くして、前を見て、ロベルトの腕に手をかけて、綺麗に見えるように工夫する。
こうしておけば、周りも見ていて気分がいいだろう。
話される内容は主に私のことについてで、どこで会ったのかとか、どこから来たのかとか、そういうのばかりだ。
私ばといえば、それには答えず、いろんな人の香水のせいで気持ち悪くなっていた。
我慢していたけれど、段々と立つのも難しくなってきた。
「ロベルト様、少しお席を外しても?」
このままでは作戦を決行する前に倒れる。
目標も動いていないし、少し席を外しても構わないだろう。
一度バルコニーにでも出ようか。
どうにも、人に囲まれるのはいいが、人の色んな匂いが混ざると駄目らしい。
「どうか、なさいましたか?」
ロベルトが心配そうに声をかける。
これは作戦にはないから、戸惑わせてしまってるだろう。
「いえ…少し、外の空気に当たってこようと思いましたの。」
「それならば、私もいきましょう。丁度、私もそう思っていたのです。」
すっと手を取られる。
そうなのだろうか?でも、それが嘘でも、私のための優しい嘘だ。
嬉しい。
けれど、本当に?
一緒に、来てくれるの?
この人たちとの関わりも大事なはずなのに。
私のために?
じわじわと喜びが広がる。
「…よろしいのです、か?」
「勿論。貴女を一人にさせては、私の心臓に悪い。というわけで皆様、我が愛しの姫の願いですので、今日はこの辺で。」
軽く礼をして、皆様に挨拶をする。
ロベルトにエスコートされながら、私はその場を後にした。
バルコニーに出る。
夜風が気持ちよくて、気分がすっきりした。
「ごめんね、ロベルト。」
「いいんだ。香りのせい?」
「うん。最初は良かったんだけど、人が入れ替わると香りが混ざっちゃって、気持ち悪くて…」
今も吐き気がする。
それほど、香りが強いのだ。
「ロベルト…椅子、持ってきてくれる?」
「わかった。少し待っていて。」
ロベルトが会場に戻って、騎士に声をかけて椅子を持ってきてくれた。
置かれた椅子にそっと腰掛ける。
座るだけで随分と体が楽になった。
「カナリア、ローブ、今だけとる?」
こそ、と聞こえるか聞こえないかの声量でロベルトに問われる。
「いいの?お願いします。」
視界が開けた方が回復が早くなるだろう。
香りに酔ってしまっただけだろうから。
「触れてもいい?」
「うん。」
後ろの髪に留めてあった髪飾りを取ると、ローブがふわりと落ちる。髪色を隠すために、ロベルトが隣に立って、マントを広げる。
そうすれば、会場からは私の姿は見えない。
ふと、ロベルトを見上げた。
今日初めて、こうやってしっかりとロベルトを見る気がする。
「綺麗だね、ロベルト。」
気づけば、そう口にしていた。
黒い髪と、青い瞳。光の加減で色味が変わる髪は、今は後ろに流されていて、美しい。
青色の礼服に、銀の刺繍が入っているのは、私のドレスと、同じ色で、私の髪と同じ色。
「カナリアも綺麗だよ。」
微笑んだロベルトは、私が見てきたどんなものよりも、ずっとずっと綺麗だった。
氷が溶けるみたいに、じんわり滲む優しさが好きだ。
「ありがとう。」
その笑みに、私も微笑み返した。
貴方がそうやって言ってくれる限り、私はきっと綺麗だから。
貴方がそう言ってくれるがきり、私は美しくなれるだろう。
数分がたった。
夜風に当たって、視界も開けていたからか、気分も良くなってきた。
「ロベルト、目標の動きは?」
挨拶も終わって、そろそろ行動する頃だろう。
ロベルトが目を閉じる。
数秒後に目を開け、私を見つめた。
「…もうすぐ、食事をとりに移動する。やるのかい?」
「うん。」
空間魔法から果実水を取り出し、揺らして中を混ぜる。
月光に照らされたそれが、鈍く光り輝いていた。
そして、それに法則をかける。
魔力を込めれば、目標の手の中にあったワイングラスがこちらに転移した。
目標の手には、果実水があるはずだ。
『作戦を開始いたしました。』
お父様と、複数の騎士たちに魔力を飛ばす。
『『『了解した。』』』
それぞれの魔力が配置につく。
そしてー
「うがぁっ!?」
会場から、声がした。
次回は筆者が書いてて目を輝かせた回です。




