断罪の時 1
こつ、こつ、とヒールが音を立てる。
普段なら目立たないそれも、今となっては注目の的となっていた。
その理由は、「氷の公爵」が令嬢をエスコートして微笑んでいるからだろうか。
それとも、その女性が"美しい"からだろうか。
「陛下、ご機嫌麗しゅう存じますわ。」
全てを包み込むような優しい声が会場に響いた。
ふわりと、鳥が大きな翼を広げるように青いドレスが広がる。
それに合わせて、ベールがふわ、と舞った。
顔も、髪色も、何もわからない。
それなのに、会場の人間たちの本能が言っている。
あの女性は美しいと。
佇まい、声、仕草。
洗練されたそれは目を見張るほどで、見ているだけで目が癒される。
「ああ。今宵は楽しもう。」
「はい。」
返事をした皇帝に、女性はベールの下で微笑んだ。
***
ガラガラと馬車が揺れる。
満月が空に浮かび、まさに作戦決行日には打って付けの空模様だ。
アイラさんたちに全身を磨かれ、汚れ一つないであろう私は、皇帝陛下の住む宮の近くの会場に向かっていた。
私の髪色と瞳を隠すため、頭から深くベールをかぶり、髪は一つにまとめてある。
ベールは、真っ白の、透けない白だ。
というわけで、私は前が見えない。
なので、馬車の中でもロベルトの手を握っている。
舞踏会の会場でもずっとロベルトの腕を掴むことになるだろう。
嫌ではない。
寧ろ、安心するし、嬉しい。
「カナリア。ついたよ。」
「ありがと…」
ゆっくりと立ち上がり、壁をつたって前へ進む。
「失礼。」
軽く身体を持ち挙げられ、バランスを取るためロベルトの両肩に手を添える。
一瞬の浮遊感はすぐに消え、代わりに足元でこつりと音が鳴った。
どうやら、馬車から降ろしてくれたらしい。
人の気配はわかる。
なんとなく、魔力で。
建物や障害物はわからないから、ロベルトにエスコートしてもらうしかない。
『まっすぐ、前を向いて。歩き始めるよ。』
頭に直接響く声は、ロベルトの声だ。
念話のようなもので、魔力の波動を使った言葉。
多分、わかるのは私とロベルトぐらい。
私が魔力の扱いに長けているのを気づかれてはいけないから、手を添えているロベルトの腕を少し握った。
それを確認したロベルトがゆっくりと歩き出す。
「ブロード家、ご到着です。」
門番の声がして、ゆっくりと扉が開いた気がした。
ブワ、と風が舞う。
中からたくさんの人の気配がして、美味しそうな食事のいい香りがした。
そのままゆっくりと歩いた。
周りに人はたくさんいるけれど、声がしない。
なんだろう。
今回の舞踏会の形式は特別で、来場した順番に皇帝陛下に挨拶をすることになっている。
ロベルトのエスコートの元、陛下の前にたどり着くことができた。
「陛下、ご機嫌麗しゅう存じますわ。」
なるべく綺麗に礼をする。
ロベルトも隣で礼をとった気配がした。
「ああ。今宵は楽しもう。」
「はい。」
そうだ。
今日は、人が絶望し、救われる日。
***
舞踏会は順調に進んでいった。
皇帝陛下の挨拶も終わり、次はダンスだ。
「美しき鳥よ、私と踊ってくださいませんか?」
ロベルトが膝をつき、ロベルトの執務室で見た光景と重なる。
周りはざわつき、こちらに視線が集まっているのがわかる。
けれど、そんなの些細なことだ。
「喜んで。」
だって、私は美しい鳥だから。
あなたの、あなただけの美しい鳥だから。
ー
ヴァイオリン、ハープ、ピアノ。
たくさんの楽器が一つに重なり、優雅な曲が会場に広がる。
リズムに合わせて踊り始める彼らは、とても美しい。
「氷の公爵」と言われる彼も、今まで人間には見せなかった優しい顔をし、その瞳は愛しいものを映していた。
「謎の少女」は、驚くほど「氷の公爵」と息のあったダンスを見せ、会場のものを魅了した。
ふわりふわりと「氷の公爵」の色である青いドレスが舞う。
「謎の少女」と「氷の公爵」が動くたび、そこは聖なる場所に変化していくようだった。
白いベールがこの際に限っては邪魔にみえる。
彼女はどんな瞳で彼をみているのだろう?
お互いが、お互いを見合っているのは彼らだけだ。
ダンスが終盤に近づく。
音楽は今日一番の盛り上がりを見せ、それに合わせて会場の人々も今宵最高の踊りをする。
彼らは会場の真ん中でクルクルと回っている。
鳥の羽のような軽い足取りは人々の目を釘付けにした。
そして、彼女はとん、と飛んで、彼へ手を伸ばす。
ブワ、と青い刺繍の施されたドレスが舞う。
細い白い腕が伸びて、それが彼の首に巻き付く。
彼はそれを難なく受け止め、彼女を抱き上げる。
『愛してる。』
そう聞こえたのは、気のせいだろうか。
次はちょっとイチャイチャします。
カナリアの視点で書かれていますので、ぜひ。
ここから事態は大きく動きますので、次回はちょっとこれからの衝撃のメンタル回復剤として、作者のために書きました。
更新がんばります!




