作戦準備 <3日目> / 休暇の過ごし方
朝。
青い空と眩しい太陽が綺麗だ。
隣にいる彼も綺麗だ。
温かい部屋。
ゆっくりと紅茶を飲む。
今日の予定はない。
強いて言えば、当日のドレスを決めることぐらいだ。
今日1日は、ロベルトと過ごす日。
何かをすると決めていたわけではないが、なんとなく二人で散歩に出た。
ゆっくり、ゆっくり、敷地内を歩いて進む。
差し出された腕に手をかけていれば、ここは安全だと思える。
だから、私は彼の隣が好き。
緑。
青。
桃色。
黄色。
いろんな色が、私の視界を色付ける。
貴方が、私を作る。
色々な香り。
色々な感触。
全てが新しい。
それを貴方の隣で感じられるのが、嬉しい。
***
ゆらゆらと水面が揺れる。
太陽に反射して水が煌めく。
それを見つめる君。
水の煌めきよりも、君が輝いて見えるなぁ。
しばらく水面を見ていたいのだろう。
近くにいたメイドに椅子を持ってきてもらう。
それにそっと腰掛け、君も座る。
この上ない幸せな時間。
目を閉じれば、君といなければ気づかなかったことがたくさん知れる。
例えば、水が流れる音。
例えば、風が吹く音。
例えば、草木が揺られて立つサラサラと心地よい音。
遠くで鳥も鳴いているようだ。
「ーーー♪ー
隣で歌声も聞こえる。
鼻歌だけれど、美しい歌声だ。
目を開ける。
そうしたら、どこでどの音が鳴って、何がそうさせているのかわかる。
君の歌声も。
ゆっくりと刻むそれは、女神の讃美歌に似ている。
「ーー♪」
ハッとして隣を見る。
今の…
君は、笑っていた。
優しい、春の笑みだ。
水彩絵の具のように、じわりじわりと心に色が広がっていく。
本当に、君は。
「綺麗だよ。」
君が笑っていられる世界を。
君が優しく笑える世界を。
君が、いつまでも幸せでありますように。
そして、それを隣で見ていたい。
昼。
暖かな日差しが降り注ぐ部屋で、君は本を読んでいる。
僕は、机で重要な書類だけ片付けている。
「カナリア様。少しお時間よろしいでしょうか。」
ノックが聞こえ、扉の向こうからメイドのアイラの声が聞こえる。
君がチラリとこちらを向く。
それに軽く頷いた。
「ええ。今行くわ。」
パタンと本を閉じ、綺麗な白い手が本を机に置く。
きっと、用事が終わったらここに戻ってくるのだろう。
「ちょっと待ってて。すぐ終わらせてくるから。」
「いくらでも待っているよ。いってらっしゃい。」
「いってきます。」
ひらひらと手を振って銀髪が扉の向こうに消える。
なんだか少し、部屋が冷えた気がする。
「早く帰ってきてほしいなぁ…」
いくらでも待つと言ったけれど、少し離れただけでこうも欠けた気分になるとは。
自分の中にこんな感情があったのかと、そう気づくのは君に出会ってからずっとそうだ。
僕を色付けてくれたのは君だから。
だから大事にしよう。
宝物は大事にしないとね。
暫くして。
音を立てずに扉が開いた。
風魔法で開けたのだろう。
それには驚かない。
だって、その魔力はよく知ったものだから。
「ロベルト。」
「おかえ……っ!?」
書類から目を上げると、そこには美しい人がいた。
長い銀髪は綺麗に纏め上げられ、控え目な青い宝石の髪飾りがつけられている。
青いドレスには銀の刺繍と白いレースが縫い合わせてあり、統一感がありながら神々しい。
固まっている僕に向かって、カナリアが足を進める。
新緑と琥珀の瞳が、こちらをじっと見つめている。
「こ、これ…当日に着るやつって、アイラさんが言ってたの…」
少し不安げに揺れる瞳が透き通った宝石に見える。
「…とても、綺麗だ。」
他の言葉が思い浮かばない。
綺麗、
ただその一言に尽きる。
僕は今まで生きてきた中で、これほど美しい人を見たことがあっただろうか。
否、君だから、とても美しく見えるのだろう。
カナリア。
美しい鳥。
もうすぐ、君の美しさを皆に知ってもらえるね。
大丈夫、変な輩は近づけさせないから。
君という存在を美しいと思ってくれる人が、きっと見つかる。
でもね、君の美しさをそばで見るのは僕であってほしい。
他の誰かがそれをそばで見るのはとても不快に思えてしまう。
こういうのを、独占欲とでもいうのだろうか。
椅子を立ち、彼女の前に膝をついた。
ねえカナリア。
そっと手を差し出す。
「愛しているよ。」
「私も。」
僕の手に、綺麗な手が重ねられた。




