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カナリアさんの秘密のお部屋  作者: クロ
第三章 過去と贖罪
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皇帝と真実 3

私たちは今、宮殿の一角にある部屋にいた。

ロベルトと私は二人で一つのソファに座っている。

向かいには、陛下。

私が自分を落ち着かせている最中にロベルトと陛下の間で話がまとまったようだ。

陛下に挨拶をせずにここまで来てしまった。

挨拶はしなければと思って、椅子の上で例の形を取る。

「ご機嫌麗しゅう存じます。皇帝陛下。」

「…ああ。」

「「「…」」」

沈黙。

何から話そうか。

「…カナリアよ。今、何歳だ。」

陛下が先に口を開いた。

「わかりません。」

「…其方は今、19だ。」

なぜそれを陛下が知っているのか。

なぜ名乗ってもいないのに、名を知っているのか。

なぜそんなに悲しそうな顔をしていうのか。

なぜ、泣いているのか。


答えは明確だった。


「……おとう、さま。」


「…そうだ。私は、カナリア。其方の父だ。」


あの事件の日。

全て思い出したのだ。


お母様が、死んだこと。

お父様が、いること。

そして、幼い頃の記憶。


全部。

お母様が忘れさせた記憶全部。


「私、全て思い出したのです。全部。

お聞きになられますか。お父様。」


「ああ。聞こう。」


何かを覚悟したようにぐっと目を閉じる陛下。

無意識に手が震えていた。

これは、私たち家族の真実。

目を逸らすことなど許されない。

そっと、隣から大きな手が重なった。

ロベルトの手だ。

温かい大きな手。

私に世界を教えてくれた手。

私を、鳥籠から引っ張り出してくれた。

大丈夫。

きっと、大丈夫。

ふっと目を閉じる。

全てを、共有する。


悲しみも、痛みも、喜びも、悔しさも、怒りも。


「あれは、何十年も前のことですー


歴史が、真実が、顔を覗かせた。


***


それは、冬に入る頃だった。

約15年前。

内乱が起きた。

現皇帝、カイン。

彼に、毒が盛られた。

彼は一命を取り留めたものの、犯人は不明。

そして、疑われたのは、妻であるナリア皇后。

そして、その疑いをかけたのは皇帝の母、皇太后だった。

だが、ナリア皇后は何もしていなかった。

その時の皇太后の権力は今だ政治に影響していた。

このままでは、ナリアは処刑される。

そう考えたカインはナリアと二番目の娘、齢4歳のカナリアを城から逃した。

安全な場所を調べ、書き留め、ナリアに渡した。

一番上の娘は時期女帝となるため、カインとともに城に残った。

雪の降る、寒い時期だったという。


そして、数年が過ぎた。

3年後の春。

皇太后の権力を押さえ、国が安定した頃だった。

カインはカナリアを迎えに行こうとした。

そして、迎えに行く一週間前。

皇帝カインの元にナリアの訃報が届いた。

そして、カナリアが見つからないとも。

カインは絶望のあまり、宮殿を破壊しかけたという。


犯人は不明。

ナリアが住んでいた村は、突然消滅した。

見立てでは、盗賊の襲撃だった。


皇后ナリアは、見つかった。

胸を貫かれ、森の入り口で倒れていたという。

騎士団が駆けつけた時には、もう息はなかった。

享年29。

それが、ナリアの生きた年数だった。


そして、カナリアが見つからない。

7歳。

一人で何でもかんでもやるには無理だ。

森の入り口に倒れていたナリア。

カナリアは森に逃げたと考えられた。

すぐに森に調査隊が入った。

一年探した。

けれど、見つからなかった。

これでは、もはや国内にいるかもわからない。


カインは二度目の絶望を味わった。

同盟国の国王にはカナリアのことを伝え、それらしき人物がいたら報告してくれることになった。

そして、何十年も経ち。

いまだに調査団はあの森に派遣されている。


せめて、遺体だけでも。

それが、民たちが願ったことだった。

生きていてくれたら、それはもう奇跡だと。


どうか、ご無事で。

そう願わずにはいられないのだ。



そして、娘ははあの森で生きていた。

ナリアが貼った結界の中で生きていた。

記憶を無くして。

そして、彼女は鳥籠から抜け出し、現皇帝の前にいる。


第二皇女、名を、カナリア・リベ・アーレンス。

アーレンス帝国の第二皇女。

第一皇女であるアイリアーナ・リベ・アーレンスの妹。

そして、皇帝カインと皇后ナリアから生まれた、第二の娘。


それが、美しき鳥の真実。



***



静かな部屋は、オレンジ色の太陽に照らされていた。

陛下は泣き崩れている。

静かに、確かな深い悲しみを背負って。

ぽたりと、僕の手の甲に温かい水が落ちてきた。


美しい鳥は、泣いていた。


ボロボロと二つの宝石から溢れる涙は限度を知らない。

声を上げることもなく、ただただ静かに泣く。


忘れた記憶を全て取り戻した時、彼女はどんな気持ちだったのだろう。


「おか、あ、さま。」


ポツリとつぶやいたカナリアにハッとする。

ああ。

彼女は今この時に、母という存在が確かに存在したことを、そしてそれはもうないことを理解したのだろう。

人が死ぬと、しばらくは思考が動かない。

それは何年にも及ぶ時がある。

事実に、現実に、追いつけないのだ。


そっとカナリアを抱き寄せる。


君は、今どんな気持ちなのか。

悲しい?悔しい?それとも、君は怒っている?


どうか、どうか、君のこれから先の未来が幸せでありますように。

美しい翼をはためかせることができますように。

君の手から、失われるものがありませんように。

形のいい頭を撫でながら、僕はそう祈ることしかできなかった。



〜♪



私の愛しい娘。

彼との間に生まれた娘。

私の大切な宝物。

置いていくことになってしまってごめんなさい。

ああ、もう一度、あの人の声が聞きたい。


胸から命が溢れていくのを止められない。

「カイン……」


どうか、あの人たちの未来が明るいものでありますように。

どうか、あの子達が明るい未来を生きることができますように。

できることなら、ずっと隣で見ていたかった。

学園にも通うことになるのだろう。

制服を着て、たくさん勉強して、今は小さいけれど、いつかその手で未来を掴むんだろう。

それをずっと、そばで見守ることができたら。


「ー。ごめん、ごめんね。お母様には、もうこれしかできないの。」


幼い娘を結界で覆った。

大丈夫。幻覚魔法で周りには見えない。


ああ、まだ生きていたい。

ずっとあの人の隣で生きていたい。

それでも、それは叶わないから。


「愛してるわ。どうか、幸せにー」


二度と、彼女の目が開くことはなかった。


〜 .


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