皇帝と真実 1
銀髪と、左右で色の違う瞳。
それは、かつて存在した美しい一族の象徴だった。
けれど、それが遺伝する確率は低く、子を成し、産んだとしても、その美しさが絶対に受け継がれるわけではなかった。
そのためか、一族は滅多に見られることがなくなったという。
ある一説では、奴隷として売り払われたり、娼館で一生を過ごす人間がいたという。
そして、何百年か経ったとき、皇妃としてその一族の娘が皇族へと嫁いだ。
皇帝と妃の間には、娘が二人いた。
第一皇女であるアイリアーナ・リベ・アーレンス。
そして、第二皇女は…行方不明だった。
十数年前、皇妃と共に姿を消した。
第二皇女の名はー
***
「ロベルト。一つ、お願いがあるの。」
少し肌寒い春の朝。
ロベルトと一緒に朝食をとる、穏やかな時間。
目覚めてから一週間。
私は幸せな日々を送っていた。
「うん?何だい?」
食後の紅茶を飲んでいたロベルトが首を傾げる。
青い瞳が私を映した。
「皇帝陛下に、謁見を。」
彼に、彼の方に、伝えなければいけないことがある。
そして、真実を明かさなければ。
私の真実を。
世界で一番大切で、愛おしい貴方に。
ロベルトが陛下に謁見の申し出を出しに出かけた。
私はロベルトが帰ってきた時に気付けるようにバルコニーでお茶をしている。
温かい紅茶と、少しのお菓子。お菓子はロベルトが帰ってきたら一緒に食べるつもりだ。
ロベルトのお屋敷にあった図書室は立派で、そこから持ってきた本を読みながらロベルトの帰りを待つ。
私が今読んでいる本は淑女の在り方についての本だ。
私はロベルトと一緒にいたい。
ロベルトも、私と一緒にいたいと思ってくれている。
ならば、ロベルトの隣にたっても恥ずかしくないようにしないと。
ロベルトは貴族。
貴族は評判を大切にする。
これで私が何かヘマをしたら、迷惑がかかるのはロベルトの家だ。
他にも、政治や経済、他国のことについての本もいっぱい読んだ。
読み終わったら、紙にそれを書き出してまとめる。
今日は白いドレスだから、インクで袖を汚さないようにしないと。
まあ、それが最近の私の日課だ。
五冊ほど読み終わった頃だった。
遠くからロベルトの魔力を感じた。
バリバリと逆立っているそれは、威嚇している猛獣のようだった。
とてもとても遠い。
でも、ロベルトをそうさせている何らかの原因があると思うと、いてもたってもいられなかった。
「カナリア様!?」
体から魔力が漏れる。
バルコニーに手をかけて、私は2階から飛び降りた。
昔の私なら、こんな大胆な行動は取れなかった。
でも、今ならできる。
だって私はー
頬に当たる風を感じながら、魔法で馬を作り出す。
それにまたがって、空を駆ける。
私は帝都に向かって馬を走らせた。
///
「おかあさん!みて!めがみさまだよ!」
帝都で母親と手を繋いで歩いていた少年は、空に向かって指差した。
「え!?」
母親は驚き、子供の指さす方を見る。
周りにいた民たちも、空を見上げた。
そこには、確かに女神がいた。
半透明の馬に跨る女神は美しい。
白いドレスに長く、絹のような銀髪。
遠目でもわかる。あの美しさは、人間の領域ではない。
「女神様…」
「女神様よ!ああ、何とお美しい!」
「おお、神よ!」
人々は空を駆ける女神に向かって手を組む。
その祈りは、女神が皇帝陛下の住む宮殿に消えるまで続いたという。
人々が祈っていたことを、女神は知らない。
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