その瞳に
驚いた。
川に水を汲みに行ったとき、向こう岸に何かが倒れていた。
黒い髪の、綺麗な人。しかも、服装からして男性。
この場所にあの方以外の人が来るのはありえないはず。なのに、何故かいるこの人をどうしたらいいのかわからなくて、一応、自分の部屋に運んでベッドに寝かせている。
(ど、どうしよう…)
病人の世話なんてしたことがない。
取り敢えず身体に優しそうな食事を作って、目が覚めたときに湯につかれるよう、お風呂を沸かした。
自分はいつも冷たい川で体を洗っているので、慣れない作業に手こずったが、なんとか沸かすことができた。
彼を寝かせている寝室へ向かい、適当に椅子を持ってきて、寝ている彼のそばに座る。
この人は、どこから来たのだろう?
私が知らない外の世界を、たくさん見てきたのだろうか。
不思議だ。彼は同じ人間で、同じ世界に生きているはずなのに、全く違う世界に住んでいる人みたいだ。
彼はその瞳でどんなものを映してきたのか。
綺麗なもの?綺麗じゃないもの?嬉しくなるもの?悲しくなるもの?怖いもの?
知りたい。外の世界を知りたい。
絵本でしか読んだことのない、あれから見ていない、外の世界を。
嗚呼、何だろう。これは、喜びだろうか?
それとも、別の…
「…ぅ」
「!」
彼の口から漏れた僅かな声で、意識は現実へと戻された。
「あ、の…大丈夫…?」
恐る恐る声を掛けると、今まで閉じられていた瞼が薄く開き、碧い瞳がこちらを向いた。
「ここ、は…」
「ここは、私のお家。貴方が倒れていたから、連れてきたの。大丈夫?どこか、痛いところはない?」
「ああ…」
私は彼に話しかけたけれど、思考は別の所にあった。
この碧い瞳が、私の知らない世界を映してきた。
知りたい。私に教えて。どんなものを見てきたの?
それは、どんな輝きを持っているの?
それは、私が想像しているものよりも大きいの?小さいの?
それを知ることができたら、世界はもっと色付いて見えるだろうか?鳥籠の中に閉じ込められて外の世界を知らない鳥が外の世界を知ったとき、どんな感情になるのだろう?
なら、私はそれが知りたい。
だって、きっとここは鳥籠の中。
ねえ、教えて。
世界は、どんな色で、どんな風が吹いているの?
知りたい。見てみたい。
外の世界を。
誤字脱字等の報告ありがとうございます。
2日に一回は投稿するつもりでいます。
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