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カナリアさんの秘密のお部屋  作者: クロ
第二章 白き鳥の交響曲
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憎悪の暴走 2

バルコニーに続く扉を開けると、そこには美しい夜空が広がっていた。

そして、そこに佇む綺麗な人は、美しい夜空が霞むほど眩しく見える。

「ロベルト様。」

「…カナリアか。」

す、とこちらに向けられた眼はいつもとは違うけれど、悪くなかった。

「ええ。皆様へのご挨拶はお済みになられましたの?」

「…一通りはな。」

少しゲンナリしていることから、なかなか強烈なお誘いでもあっったのだろうか。

不意に風が吹くと、隣から甘ったるい香りが流れてきた。

いくつもの香水を混ぜたような、そんな香り。

「ちょっと待って…ロベルト、これ…」

思わず素のカナリアが出てしまった。

「…ご令嬢に、挨拶をされたのだけれど…ちょっと、ね…」

いつもより少し小さな声でつぶやいたロベルトは不愉快そうな顔をしていた。

香りつけにも、限度があるということだ。

「これは。流石に…」

「カナリアもそう思う?」

「うん。これは、ひどいと思う。」

「そうだよねぇ…」

二人で若干引きながら苦笑する。

ロベルトは自分の香りを嗅いで、顔を顰めると自身の周りに風を舞わせた。

風魔法で匂いを飛ばしたのだろうか。

いや、水魔法も少しばかり入っている。

二つの属性を複合させて作っているのだ。

ものの数秒で風が止み、ロベルトからはいつも通りの匂いがした。

「ロベルトはいつも通りの香りが一番いいと思う。」

星を見ながらそうポツリと言うと、隣から驚いた気配がした。

「そうかな。でも、ありがとう。」

ふふ、と笑っている。そんなに嬉しかったのだろうか。

なんだか温かい気持ちになる。

…ああ、幸せだなぁ…

ずっと、この幸せが続けばいいのに。



「キャァァァァァァァァッッッ!!!!!」


そんな気持ちを薙ぎ払うように、キイン、と耳を劈く悲鳴が聞こえてきた。

その後に、ガシャンと何かが割れる音がする。

後ろを振り向く。

中の様子は反射した光で見えづらくて、何が起こったのかわからない。

「ロベルト様。」

「ああ、行こうか。」

同じく後ろを振り返っていたロベルト様と目を合わせ、会場へと急ぐ。


扉を開けたその先には、あり得ない光景が広がっていた。


***


苦しい…くるしい…くるしい…

暗くなりつつある思考の端で私はそんなことを考えていた。

なんで、なんで…なんであの人が…

優しく微笑みかけてくれたのに。優しく笑ってくれたのに。

それも全て、嘘だというの?

私を欺くために被っていた仮面なの?

今この瞬間に味わっている苦しさよりも、深い悲しみと計り知れない絶望を感じた。


その感情を引き金に、思考はさらに闇へと飲み込まれていく。

「ー。ー。」

遠くで美しい誰かの声がする。

まるで女神様みたいな。

耳によく馴染む澄んだ声を最後に、私の視界は消え去った。





ジェシカ。彼女は元平民の貴族だ。

彼女の母が男爵家のお貴族様に娶られ、その間に彼女が生まれた。

彼女には、二人の兄がいた。

一人は、長男であるデオバルト。そして、次男であるフレック。

平民と貴族。

二つの身分の差は激しい。

幼い彼女はそのことがわからない。

けれど、母と自分が特殊な立場にあることは理解できていた様で、彼女は兄たちの恥にらぬよう、幼いながらも一生懸命努力した。彼女の兄たちはとても優秀で、彼女にとって自慢の兄達だった。

父と母は、夫婦円満とはこのことかと思うほど仲睦まじく、彼女に優しかった。

多少贔屓が過ぎると思うこともあったが、そんなところも含んで、彼女は家族を愛していた。

それが、思わぬ誤解を受けることになるとは彼女は知る由もなかった。


彼を、憎悪が蝕んでいく。

黒い感情はやがて殺意と変異し、それは限度を知ることなく増していく。

その感情の矛先は、やがて少女へと向く。

母を失い、義理の母から生まれた子。

父母から愛を奪い、独占した忌まわしき子。

そして彼は、罪を犯した。

今この時に。



***



「これは、いったい…」

先ほどまで立っていた人たちが、立っていない。

すぐそばに倒れていたご令嬢に声をかけたけれど、返事がなかった。

騎士たちも、床に崩れ落ちていた。

一人だけ、膝をついていた人物がいた。

それも、とても見覚えもある。

「…!騎士団長様!」

その人物は、数分前に別れた騎士団長だった。

「貴女は…先ほどの…」

慌てて駆け寄る私に気づいたのか、立ちあがろうとする彼を止める。

「無理をなさらないでください!騎士団長様、この状況は一体…」

あまりにも不自然だ。

何かの催眠術でもない。

その痕跡がないから。

ならば、なんなのか。

倒れた人々の紫色の肌がそれを物語っていた。

ー毒だ。

「騎士団長様。毒はいつ盛られたのです?」

「わからぬ…っ」

ぐ、と眉間に皺がよる。

顎から汗がぽたりと落ちる。

紫色の痣のようなものが首に広がっていた。

症状が進行している。

「っロベルト!鑑定はどう!?」

「ダメだ!時間がかかる!」

そばに倒れていた人を鑑定していたロベルトは苦しげに叫ぶ。

鑑定に時間がかかるということは、自然物で作られた毒ではないということ。

それはつまりー

「ロベルト!魔解薬、作れる!?」

魔解薬。それは魔法によって作られた毒を解毒する普通の解毒薬とは違うもの。

これを使えば、魔法によって作られたどんな毒でも解毒が可能だ。

魔力によって作られた毒は鑑定が難しい。複雑な詠唱によって組み込まれるからだ。

これを作るには大量の魔力と気力を消費する。

一人で一本作って、作った本人が普通の魔力量なら、ロベルトが危ない。

魔力の枷を徐々に緩める。

私は、相当な量の魔力を持っている。

騎士団長様に『治癒』魔法をかけていた私の隣に、ロベルトがきた。

そのことに気づいたのだろう。

「カナリア。君、相当魔力があるね。」

「うん。」

これは、私自ら己にかけていた枷。

私は魔法が好き。

一度、あの森で実践してみたことがあった。

そしたら、家が壊れた。

だから、魔力を抑えていた。

それを一気に外すのは、かなり体に負担がかかる。

けれど、そんなことよりも、ここの人達を解毒する方が大事だ。

魔力の枷をゆっくり取るのに集中していると、隣からビリビリと凄まじい魔力が上がった。

「ロベルト。貴方もなのね。」

それは他の誰でもない、ロベルトだっだ。

「ごめんね。多分理由は君と一緒だと思うよ。」

黒髪が靡いて、いつもより瞳が鮮やかな青になっている。

「幾つ必要かな。」

「私たちの魔力量だったら、5本ぐらい作れるんじゃないかな。それを薄めて使おう。」

「了解。」

一応、これで応急処置にはなるはずだ。

互いの魔力を合わせるために、騎士団長様にかけていた魔法を解いて、ロベルトと手を結ぶ。

差し出された両手に自分のそれを重ねて、目を閉じる。

手から暖かい魔力が流れ込んでくる。

すごく、心地いい。

それを自分の魔力に馴染ませて、大きな魔力に変換する。

かちりと、何かが自分の中で嵌る音がした。

ハッとしてロベルトを見たけれど、ロベルトは瞳を閉じて私の魔力を馴染ませていた。

私が特別感じたのかもしれない。

しばらくロベルトを見つめていると、ロベルトの魔力に私の魔力が馴染んだのか、瞼を開けたロベルトと目が合った。

目線が交わったその一瞬でロベルトが言いたいことがわかった。

(詠唱、10秒前。)

(わかった。)

ロベルトのカウントに合わせて詠唱を口にすればいい。

二つの魔を合わせても、それは一つに似た別のものだ。

だから、詠唱も二人同時にする必要がある。

それぞれが、それぞれの魔力を扱うために。

(ーいち。)

(ゼロ!)

息を深く吸い込んで、全ての詠唱を一息に唱える。

複雑な詠唱が重なり、その姿を表していく。

やがて、空中に薄ピンク色の液体ができた。

これが、魔解薬。

実際に作ったのは初めてで、疲労感が凄まじい。

背中にはびっしりと汗をかき、呼吸は乱れ、魔力もゆらめいていた。

魔力がゆらめいているのは、体の不調や魔力自体の大量消費によるもの。

どくどくと自分の心臓の音が耳元でなっている。

ロベルトも同じ症状が出ているようで、とてもつらそうだ。

互いに支え合いながら、どうにかよろめく体を持ち上げ、会場にいる人に解毒薬を飲ませていく。

何倍にも薄めても効果が凄まじい魔解薬は、その場にいる全員に処置をするのには十分だった。

一番最初に解毒薬を飲ませた騎士団長様は、自身の回復力もあってかすぐに立ち上がり、私たちの代わりに会場のみんなに解毒薬を飲ませてくれた。

私たちも手伝ったのだが、一人では到底歩けそうにもなく、二人で支え合いながら飲ませたので、あまり戦力にはならなかっただろう。

騎士団長様がいて助かった。

そして、皆に解毒薬が行き届き、落ち着いた頃。

皇帝陛下に事情を伝えにロベルトはその場を私に一任して陛下の住む宮殿へと向かった。

私は事件の犯人探し。

でも、会場に人間がたくさんいるのだ。

少なくとも、参加者六十人余りと、メイド八十人。そこに騎士も合わせたら百人程度いるだろう。

その中から特定の人物を割り出すのは難しい。

なので、近くの騎士様に参加者の名前、性別、家名、名前、特徴、抱えているもの。そのすべての資料をもらった。

全てを脳内にいれ、壁際に立ちながら情報を整理する。

その頃にはもう、事件から三時間ほど経っていた。

もうすぐ、夜が開ける。

書き溜めていた分の一つ目。

もう1話更新します!

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