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【序章】第3話:仮面の向こう

(やっぱり、浮いてる)


舞踏会の熱気、仮面と香水の混ざった空気が私を圧倒する。

足元にすら煌びやかな装飾が施され、言葉も動作も、慎重に選ばないといけないような世界。 私は記録帳を抱え直す。


(だけど、記録する者として、怯えてばかりはいられない)

そう決意した瞬間──仮面の向こうから、視線を感じた。


ひとりの青年がゆっくりとこちらへ歩いてくる。黄金の髪が燭台の光を受けて輝き、紫の瞳には正義を貫くような意志が宿っていた。


その姿に空気が変わった気がした。


(どうして、こっちに?)


仮面越しでもわかる、まっすぐなまなざし。逃げようとしたのに、足が動かなかった。


【アデル】

「君は」


言いかけて、彼は口を閉ざした。その目は、まるで"そこにいてはならないもの"を見ているようで。だけど同時に、"そこに咲きかけてしまった蕾"を慈しむようでもあって。


【アデル】

「この国で、記録官を?」


【アメリア】

「はい」


【アデル】

「それは……」


彼の声に、わずかな迷いが滲んだ。まるで、言うべきか言わざるべきか悩んでいるような。


【アデル】

「記録というものは、時として重い責任を伴う。特に、この国では」


その言葉に込められた重みに、胸が少し締まった。

(わたし、見られている)


──そのとき。


【ジル】

「下がりなさい」


声が、空気を切り裂いた。いつの間にか現れた深い青みがかった髪をした騎士が、私と彼の間に立つ。


一瞬、その目がこちらを向いた。何かを失ったような影を湛えた瞳なのに、不思議と胸がざわめいた。その瞳の奥に、一瞬だけ困惑のようなものが走った。


まるで、見覚えのある誰かと出会ってしまった時のような──


(この目、どこかで……)


【ジル】

「それ以上、近づくな」

「この方を──どなたと心得る」


その声には、怒気はなかった。

けれど、空気が凍るような静けさがあった。


視線が揺れる。

青年の手元にふと目がいく──


(……紋章)


仮面の下の袖口。

わずかに覗いた布地に、繊細な刺繍が浮かんでいた。


白銀で縁取られた、紫の花──アイリス。

それは、アルトナリア王家の紋章だ。


(じゃあ、この方が──王子?)

(知らずに、そんな存在に近づいていたなんて……)

(私……なんてことを)


騎士の声音には怒気はない。けれど、その静けさがかえって重く響く。


(……この人の声、目……)


その奥には、ただの忠義とも違う──

守らなければならない何かに向けた、切ないような決意があった。


(ちがう。私は……近づいたつもりなんて、なかったのに)


その視線に動けなくなっていた、そのとき。


【リュシアン】

「そんなに睨まなくても。見たところ、彼女は王都に不慣れなだけでしょう」

「好奇心が先走っただけ。"罪状"としては、可愛らしい部類です」


月光のような髪、澄んだ青い瞳をした美青年が現れた。左頬を覆う白い片側の仮面が、彼の表情の半分を隠している。その涼やかな印象とは裏腹に、声音にはどこか遊ぶような響きがあった。


【リュシアン】

「ずいぶんと真っ直ぐな目をしてますね」

「まるで、"何かを探している"みたいだ」


少し間を置いて、彼の視線が記録帳に落ちた。


【リュシアン】

「王族に近づくのは、あまり賢い選択じゃない。まあ、この国では"賢くない選択"をした記録官の末路は、だいたい決まってますが」


「その帳面──使いどころを間違えないように」

「"誰を記すか"で、君の立場は簡単に変わりますから。それこそ、存在ごと」


最後の言葉は、冗談めかした調子だったが、その奥に鋭い警告が込められていた。何かを見透かすようなまなざし。


私は何も言えず、記録帳を胸元に戻した。


(この人たちは、みんな何かを知ってる)

(でも、教えてはくれない)

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