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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第5章 (上) 倒錯傾蒙
69/72

倒錯傾蒙 その3

3/7の12:00に少し追加してます。

 

  ◇

  

  受容、変換、伝導、認識。

  

  単なる電気信号のシークエンス。

  だけどそこには確かに『己』があった。

  でもそれを実感できるのは強い刺激があるときだけだ。

  だから求めた。より強い、鮮烈な刺激を。

  痛みという電気信号が走るたびに、自分がここで生きているということを実感させられる。その瞬間がたまらなく心地いい。

  この身は居場所を探してる。自分が痛みを味わえる正当な理由。

  誰かを守る英雄(ヒーロー)。そういう自分であれば、正しさの中での行動であれば、その行いは善となる。

  傷付いてる人を見つけたら助けましょう。

  苦しんでる人を見つけたら手を差し伸べましょう。

  それは正しい。奴隷のように正しさに付き従っていれば、自分は善い人間としてそこに居られる。

  そうだ————僕は、そういう男であったのだ。

  

  

 良くあるベタな、夢による内省。

 だがこうやって夢に出てくるということは、それほどに僕自身が美佳やトリープから聞いた言葉を意識しているからなんだろう。

 だがアレが答えだ。このことを目が覚めたときどこまで覚えているかはわからない。

 意味はない。どうせ、覚えていてもいなくてもすべきことは変わらない。

 僕は傷付くために、善き行いをする。

 

  ◇

 

 隠し通路を抜けた先も変わり映えのない部屋が続いていた。

 扉を破壊して怪異を祓う。同じようなことを繰り返していたが、その部屋は少し変わっていた。

 ぽつん、と天井に強い照明が一つ。それ以外は何もない部屋だ。

 

「行き止まり……? いやこれは……わざわざ迎えに来てくれたということか」

 

 吹き沸く瘴気が人型を成し、シャルディーンが姿を現す。

 

「単身で我が城塞に乗り込んでくるとは……自らの危険を顧みぬ蛮勇か、はたまた勝算あってのものか……」

 

「勝算? それはこっちの台詞だろう。おまえの魔術は伝統的で実にわかりやすいものだ。こちらが対策を取れてないとでも?」

 

「ほう、吠えたな。だが代々受け継がれてきたのにはそれなりの理由があるのだ。その読みの甘さを後悔するがいい」

 

 ぶつかる視線は衝撃波を放つように気迫を示した。

 臨戦体勢——『複印影片輝(ふくいんえいへんき)』で召喚した二体の黒犬に対して相手の武装は『照応天球(オルタプラネッツ)』による天体照応魔術。

 お互い中遠距離での戦闘を得意とするスタイルであった。

 そして一歩、前に歩み出すと——、

 

「…………ッ⁈」

 

 女魔術師は危機を察知した。正面からではなく、背後から——。

 

(当然想定内の行動だ……相手の根城であれば周到に罠を張っていることは……だが、魔力の起こりが直前まで感じ取れなかった……なぜだ?)

 

 こちらへの警戒が薄れた瞬間をシャルディーンは見逃さない。

 

黄道(ヴィーナス)(イン)二番タウルス六連星への追翔(アルデバラン)ッ!」

 

 眼前に迫るのは『金星』を暗示する桃色の球体。背後からは超新星が如き輝きを放つ魔力の炸裂。

 不可避の挟撃に打つ手なし————そう思われたが。

 

「なにっ⁈ 軌道が……」

 

 赤銅色の髪を掠めて金星の照応天球(オルタプラネッツ)は旋回した。目標は八敷先生の顔面から使い魔の黒犬へ。

 桃球は黒犬の側頭部を貫通してシャルディーンのもとへ戻る。

 

「金星球の対象を使い魔に転嫁させたのか、面白い!」

 

 爆風を受け流しつつ、八敷先生はシャルディーンを視界に捉え、もう一体の黒犬を差し向ける。

 黒犬と魔術師の輪舞。公転さながらに照応天球を廻して黒犬を振り解こうとした。

 そして、回転は守勢から攻勢へシームレスに繋がる。

 

「後ろかっ!」

 

 振り向きざまにバックステップ——しかし、シャルディーンの方が早い…………‼︎

 

「取ったッ!」

 

 覆い被さるように八敷意に影が落ちる——しかし彼女はこの状況で不敵な笑みを浮かべた。

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