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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第5章 (上) 倒錯傾蒙
68/72

倒錯傾蒙 その2


  ◇

  


 八敷先生が生徒たちを一時帰らせたのには意味があった。

 生徒たちに休息を取らせたいのはもちろん、この場においては彼らが足手纏いになる可能性があったからだ。

 五人の安全を意識しながら戦うのは難しいことだ。

 しかし、彼女一人では勝てる見込みは薄い。前回の戦闘では命明仮想火天めいみょうかそうかてんによる、外界への魔力干渉なしでの純粋な肉体強化のみでの肉弾戦によって決着がついたが、最後の最後で彼女のスタミナ切れが敗因となった。

 だから最後で、あと一押しの要素が必要だった。

 

(この部屋の奥で、ヤツが待ち構えている)

 

 朝礼台の下に生じた異空間。その中には木造の部屋があった。ほのかに紅茶の香りがすることから、シャルディーンがここで休息をとっていたものと思われる。

 ここはダミーだ。万が一に一般人が迷い込んできたときの保険だろう。引き返す扉に促すよう暗示が部屋全体にかかっていた。

 であれば目の前にあるこの扉を開けた先は、容赦なく侵入者を排除するよう実力行使に出るだろう。

 

 がちり、とドアノブの捻る音が合図だった。

 

 空気を切り裂く音——それが即座に自身へと接近しているものだと八敷意は理解した。

 咄嗟に躱しながら、扉を閉める。

 怪我はなかったが、少し面倒だった。ドアが開き切るより先に襲い掛かられては突破は容易ではない。

 

「まったく、一つ手が塞がってくるタイミングで襲いにかかるとは、なかなか賢しい」

 

 だがこの程度は問題ではなかった。

 片手が塞がることを前提で襲ってくるのであれば、その前提をブチ破ってやればいい。

 

「少々手荒に行くが、許せ」

 

 脚部に呪符を貼り、その脚を突き出して扉の中心へと飛び込む。

 飛び蹴りによって扉を突き破りながら先の部屋へと入り込んだ。

 そこに待ち受けていたのは人でも獣でもない、ただの装置(ロボット)であった。

 

「周囲の魔力を原動力に動く簡易的な使い魔か。この程度であれば、造作もない」

 

 相手が照準を合わせる前に距離を詰め、魔力弾の発射口へ拳を突き出す。

 外殻の強度が高い分、攻撃に使う部分が脆いという典型的なタイプだ。ここでの最初の敵を難なく打ち滅ぼし、先へ進む。

 

 

 道は入り組んでいて、暗かった。

 所々にある照明のおかげで数メートル先は見えるが、空間の果ては闇に包まれていた。

 

「不意打ちに警戒すべきだな」

 

 そう言って懐から取り出したのは小型の映写機のような魔工品だった。

 光が壁を差し照らし、影の像を映した。その影が浮き上がるように立体的になり——ひとりでに動き出す——それは犬の姿をしていた。

 それが二体。彼女の前後を守るようにして配置される。

 『複印影片輝(ふくいんえいへんき)』————その映写機で作り出した影から、自身の使い魔を召喚する八敷先生の魔術工芸品。本体は映写機の方であるため、そちらを破壊されるか、エネルギーが底を尽きるまで何度でも影を媒介にした使い魔を生成できる。

 急ぎ足で、されど慎重に歩んでいく。

 その途中で、今いる位置が廊下であるということに気付いた。

 となれば、側面に扉があるのは当然だろう。

 

「さてどの扉に入るべきか……」

 

 左右に二つずつ見える扉。まだその先にも同じように扉があるのだろうと考えると、そのうちのほとんどは罠であるかもしれないと考えた。

 しかしヒントなどはなく、手当たり次第に入るほかないというのが最終的な結論であった。

 ただし、チマチマと一つずつ開けていく必要はない。

 

「食い破れ」

 

 二つの尾が交差しながら轟音を掻き鳴らす。

 先程のドアを開けた先での罠の対策と、一つずつ開ける手間を考えた結果——全ての扉を瞬時に破壊するというのが最適な選択だと判断した。

 

「どれもハズレか……つまらんマネをする。とすれば答えは上か」

 

 数多くあった扉は全てブラフ、天井に通気口のような隠し通路があった。

 しかし開いた扉から湧き出でる魑魅魍魎の群れ。一つの部屋から現れた数だけでも並の魔術師を殺し得る脅威度であった。

 

「その前に、手早く掃除を済ませよう」

 

  ◇

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