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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第4章 痾裡栖─アリス
65/71

#3 第4節


  ◇

 

 林に囲まれた山道を登って、幸斗と美佳は寺院の境内へ足を踏み入れた。

 とても空気が澄んでいて、どこか緊張感を漂わせるような神秘的な空気だった。

 

「ここは江峰市にある霊脈の中継地点の一つだから、他の場所よりも魔力の濃度が高いわ。魔術師が相手を待ち受けるならそういった条件はまず考えなきゃいけないことだけど、どうやらここはハズレみたい。やっぱり歪みがあって扱いにくいからなのかしら」

 

 美佳の精査によると、ここにシャルディーンの痕跡はなかった。

 幸斗が碧水の力に目覚めると同タイミングで起こった霊脈の乱れの原因にはっきりとした根拠は見つかっていない。

 しかし幸斗の中に宿っている力が関与している可能性は高いと考えられた。

 

「ちなみに、ここに来て何か感じることはある?」

 

 美佳の問いは幸斗に向けられたものではない————。

 

「そうだね……特に何かを感じることはないけども、居心地がいいとは思うよ」

 

 答えたのは幸斗の中に眠る怪異——『トリープ』と呼ばれている存在だった。

 

「強力な怪異であれば霊脈を自分の都合の良い状態に弄ることだってできる……だからこの霊脈の乱れはアンタのせいだと思ったんだけど…………そういう自覚はない?」

 

「……心当たりはないね。私自身この身体に宿る前のことはあまり記憶にないんだ」

 

「あまりって……そもそも祈現怪異にそれ以前の記憶なんてあるの?」

 

「わからない……けれど確かに前の記憶があって、それを忘れている状態にあると感じているんだ」

 

「うーん、そもそも会話ができる祈現怪異というものがレアだし、できてもまともに答えてくれるわけじゃないから前例がなさすぎてなんとも言えないわね。逆に何か覚えていることはあるの?」

 

 美佳のさらなる追及の質問に顔を俯かせ、しばらく悩んだあと、彼は空を見上げながらどこか懐かしそうに答えた。

 

「…………そうだね、ここと似た——静かでありながら生き生きとした空間にいたような気がするよ…………。だけど一方ですごく暗い、陰鬱な空気も吸っていたような気がする」

 

 その回答は曖昧すぎて美佳の考察に役立ちそうではなかった。

 少なくとも、さらに情報が得られるまでは彼の回答の意義を理解することはないだろう。

 

「抽象的すぎてよくわからないわね。それが明確な場所を示したものなのか————はたまた怪異として発現する前の、幸斗の精神にあった風景なのか…………」

 

 顎に手を当てて思案する美佳。

 ただ彼女にとって疑問に思うことは他にある。

 一つは『トリープ』が祈現怪異だった場合————幸斗の願いとはどういうものだろうかということだ。

 彼が持つ能力とその起因となった願いが直接結びついているようには思えない。

 そしてもう一つは祈現怪異でなかった場合————幸斗の精神性になんらかの干渉が施されているのではないかということだ。

 文化研究部に入る前の幸斗がどのような性格をしていたかは美佳にはわからないが、今の彼の精神性は異常であった。

 何が彼に自らの危険を顧みない行動をさせているのか。

 そう考えると自然に『トリープ』という存在が鍵になっているという線が浮かんでくる。

 だがそれを本人に聞いてみたところでわからないと返ってくるだろう。

 

 碧き水による生命力——そこに秘められた謎はさらなる謎を呼び、深き迷宮に封じ込められたような心地にさせた。

 

「……もしかして」

 

 その時ふと、美佳の脳裏に一つの考えがよぎった。

  

「彼の能力の本質は回復効果……?」

 

 視覚的に碧水の放射が目立って見落としてしまいがちだが、そちらはあくまでエネルギーをそのまま攻撃に転用しているだけだった。

 しかしそのエネルギーはあまりにも幸斗の身に余る量だ。はじめに美佳が幸斗の能力を見た時のあの威力——建物を全壊させるほどでありながら平然と疲れる素振りも見せなかった。


 ——それもエネルギーが常に供給され続けているからだとしたら?

 

 尋常じゃない速度と量でエネルギーを生み出し続ける生きた発電所。それが幸斗に宿った能力なのではないか。

 

「…………と、流石に推測が過ぎたかな。幸斗、ここにはもう用はないから連絡次第動きましょ」


  ◇

 

 紫雲が揺蕩う空の下、廃校の遊具一つないグラウンドにて、梁山浄と織本薫が調査を進めていた。

 

「ここ、一際反応が(つえ)ェな」

 

 浄はゴーレムのコアの入った容器を持って朝礼台の下を指し示した。

 

「って言ってもこの下には何もないですよ?」

 

 薫の言う通り、朝礼台の下は細かな砂で敷き詰められていて、特に変わったものがあるようには思えなかった。

 だがそれは神秘の世界に疎い薫の視点ではの話である。

 

「オレの目は特殊だからな。こういうのには鋭いんだ」

 

 浄は中空から『牙』を取り出し、それを以て台と地面の隙間を薙ぎ払った。

 

「ほれ、これで見えるだろ」

 

 空間そのものが避け、その内側を覗き込む。

 そこには確かに部屋があった。

 

「ここがヤツのアジトなんだろうな…………。この先も気になるところだが、まだ乗り込むタイミングじゃねェ。先生たちに連絡する」

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