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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第4章 痾裡栖─アリス
64/72

#2 第4節


  ◇

 

「遅くなったな、すまない」

 

 八敷先生の登場を以て、調査はさらに深層へと向かうことになった。


「じゃあ先生と荒志郎は廃工場でいい? 梁山先輩と薫が旧岳巳(たけみ)中学校で、ウチと幸斗が峰光(ほうこう)寺へ向かうから」

 

「まあその人選に異論はないな。他のみんなは少し帰りが遅くなるかもしれないがいいか?」

 

 先生の問いかけに否と示すものはいなかった。

 ——そして二人三組での捜査が始まる。

 

  ◇

 

 かつかつと、鉄板の床を踏む音が響いていた。

 ここはかつて、鉄工所として活動していた工場で、撤退にもあまり費用がかけられなかったのか、様々な装置がそのまま放置されている。

 

「ふむ、痕跡はあるようだがもぬけの殻だな。おそらく数日前にはここを出ている。だがハズレというほどではない。探せば奴に関する情報を見つけられるだろう」

 

 地面に散乱した書類を手に取った。書いてある言語は英語やラテン語などの見慣れない言語だった。

 

「これなんて読むんですか? 英語はともかく、知らない言葉も混ざっていて……」

 

「これは……怪異に関する情報をまとめているのか」

 

 先生はぱらぱらとページを捲りながら読み漁る。

 

「流石に全てを残しているわけではないのか。いや、むしろ我々にわざと見せるために置いてきたようにも思える————これは、幸斗のことも書いているのか……⁈」

 

 彼が幸斗のことを注視しているような発言を美那萌との戦いの後でしていたことを考えると、それは道理ではあった。

 だがその動機はわかっていない。

 確かにあそこまではっきりとした自我を持つ祈現怪異は前例になかったが、それにしては時期が早い。

 むしろそれを予期して行動していたという方が自然に思える。

 であれば——なぜそのことを知っていた?

 あくまで仮定の話ではあるが、もし幸斗が碧水の力を得るより先にあの怪異の発生を認識していたのなら——そこには八敷先生でも知らない事実をシャルディーンは握っているのではないか。

 

「その情報がここに残っていればいいが……」

 

 あちこちと巡り、ちょうど一周しようとしたタイミングで八敷先生は一つの紙に目を留めた。

 

「なに……⁈ 『あの怪異は<祈現怪異>とも、<伝承怪異>とも異なる全く新しい特別な存在』…………⁈」

 

 前提が大きく覆る事実を前に、二人は目を見開いた。

 

「待ってください。伝承怪異も、祈現怪異であったものが言い伝えによって伝承怪異へと変化したものがあります。であればそのような両方の性質を持つものという可能性はないでしょうか」

 

「ああ、ちょうどその続きが見つかった。————『アレは神の位に鎮座するべき龍を人の身に収めるよう分霊化されたものだ』————だと? そんな大掛かりな儀式であれば魔術師連盟の上層部に報告されているはずだろう⁈」

 

 さらに八敷先生は読み進める。

 そこにはこのようなことが書かれていた。

 

『エネルギーを碧き水の形で変換する炉心機構、最大出力であれば一時間で二億キロワット分のエネルギー資源を獲得することが可能となる。フィロアステリ家を主体として、デオラーナ家、錦条家の協力を得て当プロジェクトの進行を行うこととする』

 

 裏側で糸を引く三つの勢力。その三分の二が魔術師の家系だった。

 この記述の内容を正しいものとするならば、霊脈の乱れからそれによって起こる強力な怪異の出現の原因は人為的に引き起こされたものであるということになる。

 

「この計画がもし順当に進んでいるのならばこの先大きな被害を生むことになるぞ……いや、猶予はある。幸斗が奴らに奪われていないということはそこに条件があるということだ。おそらくはまだ『育成段階』! 幸斗の中にいる龍神の力が真に発現するまで奴らは彼を拘束できない……炉心として完成した段階で解体し、エネルギー生成装置製造のための部品とするつもりなんだ!」

 

 だが、その猶予はあまり多くはないだろう。『トリープ』として幸斗の内で目覚めたあの存在は既に確固たる自我を有している。

 

「ともかく、ここは一度みなさんと連絡して合流できるようにしましょう」

 

  ◇

2/15薫と荒志郎の配置が逆でしたので修正しました。

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